がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

紫金山の悲劇

僕のお気に入りのパン屋さんを紹介する「パンをたずねて三千里」

前回、記念すべき第1話をアップしましたが、その直後、パンを巡る忌々しき事態が発生した為、早くも第2話をお送りすることになりました。

 

先日、休日のインドア生活での運動不足を解消するべく、吹田市紫金山公園に散歩に出かけました。広場にはたくさんの人がうごめいていましたが、幸い森の中は人気も少なく、安全に気持ちよく散歩ができました。

歩き始めて1時間半以上がたち、さすがに疲れてきました。

すると偶然、というか計算通りに、見覚えのある洋館が見えてきました。

「あれは・・・あれだな。」

とつぶやくと、僕は吸い込まれるようにその洋館の中へ入っていきました。

ベーカリーファクトリー吹田紫金山店

大阪府吹田市が誇る大企業、(株)ダスキンが手がけるパン屋さんです。

ファミレス並みの大きな建物の中に、広大な売り場とイートインスペースが設けてあり、高い天井と、広さを生かしたラウンド状の売り場と相まって、パン屋というよりは、「パンミュージアム」といった趣きです。

ミスタードーナツで培われた技術がここでも遺憾なく発揮されており、ハイレベルなパンの数々を堪能できます。

 

さて、僕はパンを買うつもりではありませんでした。

この日は5月とは思えぬ暑さだったので、ソフトクリームを買って公園で食べるつもりだったのです。

ところがイートインスペースに目をやると、かなり空いていて、3密の心配もなさそうだし、エアコンも効いているので、中でいただくことにしました。

 

しかしそれが悲劇の発端でした。

 

イートインスペースでソフトクリームを食べていると、嫌でも他のテーブルで美味しそうにパンを食べている人々の姿が目に入って来ます。

散歩をして適度に空腹になっていたので、この隣の芝生は青く見え過ぎました。

そしてついに我慢ができなくなり、売り場へ戻り、トレイとトングに手を伸ばしてしまいました。

菓子パンを2個と、冷凍保存用に食パンを1斤、レジへと運びました。

おかわり自由のドリンクを追加で注文し、食パンのみ持ち帰る旨を店員に伝えた所、衝撃の一言が。

 

「持ち帰り用の袋は有料になりますが。」

 

今はスーパーのみならず、パン屋にまでその流れが来ているのか。

素晴らしい!と感心した僕は背中のリュックサックを指さし、「この中へ入れて下さい!」と爽やかなドヤ顔で返事をしました。

 

それからは、まさに至福のひと時でした。

ポンデリングの技術を生かしたような、モチモチの生地の中にきなこクリームが入ったパン、小さなバゲット生地に板チョコが挟んであるパン。

どちらもコーヒーとの相性も抜群で、散歩で消費したカロリーをはるかに上回るカロリーを摂取していることにも気づかないぐらいの、幸せな時間が流れていきました。

 

「あー、もっと食べていたいけど、晩ご飯のこともあるしなあ。そろそろ切り上げないと。それにしても、今日のこの椅子は座り心地が良かった。特にこの背中のクッション・・・。クッション!?いや、この椅子にはクッションなどあるはずが・・・。」

 

次の瞬間、僕は自分を襲っている恐ろしい事態に気が付きました。

 

「はうあっ!!」

 

食べている間ずっと、リュックサックにもたれていたのでした。

そして当然このリュックの中には、・・・!

この時の僕の顔はみるみる青ざめていき、よもぎパンのような顔色になっていたことでしょう。

恐る恐るリュックを開けてみると・・・明らかに食パンとは思えない形の物が見えたので、身震いをしながら、すぐにリュックの口を閉じました。

 

それからは失意のどん底のまま、家路につきました。

道中、自らが犯した重い、あまりにも重い罪を背中に感じながら。

 

帰宅してから改めて問題のブツを、リュックから勇気を出して取り出してみました。

やはりかなりの重症でした。

袋から取り出し、蘇生を試みましたが、手遅れでした。

もうそれ以上は、辛くて見ていられなくなり、目をそらしながら冷凍庫へ投入しました。

 

それから数日後、

 

罪の意識にさいなまれながら、冷凍庫から被害パンを取り出しました。

その姿はまるで、シベリアの永久凍土から掘り起こされたマンモスのようでした。

凍らせたことで、より悲壮感が増したようにも感じました。

真っすぐに立つこともできません。

そして1枚ずつ袋から取り出してみると、脳裏に往年の人気アニメの名ゼリフが鮮やかによぎりました。

 

「お前はもう、死んでいる」

 

ひ、ひでぶっ!

あべしっ!

たわばっ!

・・・・・

この変わり果てたパンを見て、僕は違う興味が湧いてきました。

 

「こんな斬新な形の食パン、なかなか食べる機会ないぞ。」

 

焼いてみました。

これだけひしゃげていると、表面にすごい高低差があるので、均一に焼き色をつけるのは困難を極めました。何回もパンの向きを変え、ポジションを変え、何とか焼きあがりました。

激しくくぼんでいる所に、マーガリン池ができています。

でもこの部分が非常にリッチな風味がしました。

パン・オ・ヒデブのモーニングセット。

何故かいつもより美味しく感じました。

 

後日、買いなおしました。

う~ん、シュッとしてるねえ。背筋が伸びている。

皆さん気をつけましょうね。

 

リュックの中にはケンシロウがいる。

 

お前がもたれただけだろう。

 

今日の1曲:クリスタルキング愛をとりもどせ!!」