がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

追憶のおばあちゃん

新緑きらめくお出かけの季節になりましたが、ここ大阪では3回目の緊急事態宣言が発令されたこともあり、家で映画でも観て過ごそうかな、とDVDの棚を眺めていました。

その中の古い洋画のタイトルを見ているうちに、独身の頃、実家で同居していたおばあちゃんのことを思い出しました。

高校生の時に母が亡くなった後、母に代わって僕ら兄弟の面倒を見てくれました。大恩人です。成人してから、その大恩を少しでも返そうと、どうすればおばあちゃんが喜んでくれるかを必死に考えていました。肩たたきをしたり、スーパーの買い物に付いて行ったりしましたが、何か物足りません。もっとゆっくりと、リラックスできる楽しい時間を過ごして欲しい、と考えた時に思い浮かんだのが、「映画」を観てもらうことでした。

ただ、うちのおばあちゃん、普通のおばあちゃんではなかったのです。そりゃまあ、僕のおばあちゃんですから。ううっ、凄い説得力だ。

普通のお年寄りの方々が好きな事が、ことごとく嫌いだったのです。近所の人と井戸端会議をしたり、カラオケに行ったり、老人会の催し物に参加したり、みんなでお茶を飲んだりするのが全部嫌いです。「ジジババが集まって何をやっとる」とよく言っていました。

そして演歌が嫌いです。テレビ番組で歌手が演歌を歌いだすと、見る見るうちに表情が曇っていきます。そして歌が盛り上がりを見せ、サビの部分で声を張り上げると、「いやらしいっ!!」と吐き捨て恐ろしい憤怒の表情を浮かべていました。特に男女のややこしい関係を歌った曲が嫌いだったようです。その一方、歌詞のわからない洋楽は好きだったようで、ニコニコしながら機嫌よく聴いていました。特に「ブラザーズ・フォア」等のフォークソングが好きだったようです。

そして無類のコーヒー好きでした。「おばあちゃん、コーヒー飲む?」と聞いて断られたことは一度もありませんでした。恐らく何十回と聞けば何十杯でも飲んだでしょう。重度のカフェイン中毒であったと思われます。大正生まれの人がここまでコーヒー好きだというのも意外ですが、それもそのはず、おばあちゃんは「喫茶王国」の名古屋出身なのです。それもかなりハイカラなお嬢さんだったようで、良質なコーヒーを日常的に飲んでいたようです。違いのわかるおばあちゃん。ダバダ~。

食べ物はが好きでした。冬になると常にストーブの上にさつま芋が置いてありました。当然それだけ芋を食べるとオナラが出ます。その出し方がカリスマ的で、階段を上り下りする1歩1歩に合わせて、「プッ」、「プッ」、と音を奏でるのです。今思い出してもこれは神業です。狙って出来ることではありません。巨匠のリサイタルを聴いているようでした。少女時代には「芋娘」というあだ名をつけられていたそうですが、今の時代ならそういう名前のアイドルグループとしてデビューしていたかもしれませんね。

そして一番好きなのが「映画」だったのです。特に洋画が好きでした。そこで僕はおばあちゃんに楽しんでもらおうと、当時はまだ高額だった大画面の液晶テレビを奮発して購入し、音声を音楽を聴いていたステレオから出るようにして、ホームシアターを完成させました。

さて、どんな映画がいいのかな?本人にリサーチをかけると、どうやらオードリー・ヘップバーンが大好きなようです。見た目の美しさだけではない、内側からにじみ出ている気品や優しさがお気に入りなんだとか。なるほど、なんかわかるような気がします。「それではお嬢様、こちらをご覧ください。」

すごくベタですが、ローマの休日のDVDを買って来ました。

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部屋をカーテンで薄暗くして映画館の雰囲気を作り、車の雑誌をテーブル代わりにしてコーヒーを置き、このロマンチックなおとぎ話を堪能しました。おばあちゃんも満足してくれたようです。そしてこの映画でヘップバーンの相手役を演じたグレゴリー・ペックがお気に召したらしく、「ええ男やな」を連発していました。そうか、おばあちゃんはこういうタイプの男性が好みなのか。

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またある日、風と共に去りぬが観たいと言うので、DVDを買って来ました。これはめちゃめちゃ長い映画なので、トイレ休憩をはさんで観ました。僕も名前だけは聞いたことのあるこの大昔の名作に感動しました。アメリカの南北戦争を舞台に描かれた大河ロマンです。「明日は明日の風が吹く」というセリフはあまりにも有名ですよね。

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そしておばあちゃん、「やっぱりクラーク・ゲーブルはええ男やな」、と。グレゴリー・ペックとはだいぶ毛色が違うが、こういう人もタイプなのか。かなりの濃い顔だが、確かに大人の色気のある、いい男だ。

また別の日、テレビでハスラーという映画を放送していたので観ていました。プロのビリヤード師の非情な世界を描いた作品です。

f:id:gatthi:20210417104128j:plainすると、おばあちゃんが画面にクギ付けになっていました。かつてない程の凄い食いつき方です。

そしてボソッと「ポール・ニューマンか・・・」とつぶやきました。

ポール・ニューマンが本命か!?

と思ったのもつかの間、またまたある日、たまにはこんなのもどうだろうか?と僕の好きな西部劇を観てもらいました。リオ・ブラボーという、痛快無比の最高に面白い作品です。

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そして主演のジョン・ウェインを見ると「いかにも頼れそうな、ええ男や」。この映画には他にもディーン・マーチンリッキー・ネルソンといったイケメンスターが出演しており、終始嬉しそうに観ていました。

 

おばあちゃん、とりあえず面食いなのね。

 

映画を観る度に、恋する乙女の表情になっていました。

しかし映画自体は面白いのですがイケメンが出ていない映画を見せると、99%ぐらいの高い確率で途中で寝ていました。

そんなキュートなおばあちゃんも5年前、102歳という長い生涯に幕を閉じました。

晩年は認知症がかなり進んでいましたが、テレビにイケメンが映ると良い反応をしていたようです。

古い映画のDVDコレクションを眺めていると、おばあちゃんと映画を観た日々が懐かしく思い出されます。あの時は何気ない、いつもの時間だったのですが、今になって思うとなんて大事な、特別な時間だったんだろうとしみじみ感じます。この思い出は、僕の一生の宝物です。

ところで先日、古いアルバムをめくり、家族の写真を眺めていた時、世紀の大発見をしました。とある写真に僕のおじいちゃんが写っていました。おじいちゃんは僕が小3の時に亡くなったのですが、よく散歩に連れて行ってくれました。孫の僕が言うのもなんですが、かなりハンサムです。そのおじいちゃんの顔を見てハッと気づきました。そして高校時代、中間テストで脅威の一桁台の点数を叩き出した高い数学力で計算式を導き出しました。それが以下の数式です。

 

グレゴリー・ペック + ポール・ニューマン + ジョン・ウェイン ÷3=

おじいちゃんの顔

 

おばあちゃん、一本筋が通ってるな~!

あれ、でもクラーク・ゲーブルは入ってないなあ。そこは妥協したのかな?

 

今日の1曲:BEGIN「涙そうそう

 

※ブログ復活に際して、おばあちゃんが天国から背中を押してくれたような気がしました。おばあちゃん、ありがとう!