がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

ホットクロス ~ 幸せの黄色い食パン

誇り高き考古学者ガッチー・ジョーンズ。彼の頭の片隅にはずっと引っかかっていた事があった。数年前、大阪の阪神百貨店で出会った食パン。非常に美味しかったのだが、どこのお店のものだったのか、思い出せないでいたのだ。阪神百貨店の「パンワールド」には実に多くのお店のパンがカオス状態で並んでおり、その中で色々買ってしまうと、どこのパンだったか忘れてしまうのも無理はない。

ただジョーンズは、この食パンの「ある特徴」」を覚えていた。

「妙に黄色い色をしたパン」だったのだ。

そしてもう一つの手がかりとして、パンの袋に印刷されていた怪しげなマークを覚えていた。ヒトデに顔を描いたような、奇妙な、秘密結社のシンボルマークのようだった。

しかしこれだけの手がかりだけではとてもじゃないが探せない。ジョーンズは半ば諦めていたのだが、ダメ元で北摂の名探偵、合致大五郎に調査を依頼していた。

そして依頼をしたことすら忘れようとしていた頃、突然大五郎からの調査報告が届いた。

その一報はいつも通り、秘書の柴犬うめちゃんからもたらされた。

f:id:gatthi:20210313161812j:plainうめちゃん「先生、探偵さんからの調査報告が来てよ。」

ジョーンズ「何っ!?遂に来たか。どれどれ。見せてちょ。」

 

「拝啓 ジョーンズ殿

依頼されていたパンの件ですが、貴殿の申されていた特徴に近いと思われるシンボルマークを冠するお店を発見致しました。「ホットクロス」というお店です。大阪・ミナミの南堀江と北堀江に2店存在するようです。しばらく張り込みをしましたが、ひっきりなしに人々が訪れるかなりの人気店のようであります。このお店であっているかどうかは、同封の写真を貴殿の目で直接ご確認下さい。

貴殿のパンライフが素晴らしいものとなるよう、心よりお祈り申し上げます。

令和3年 5月吉日 合致大五郎より」

ジョーンズ「この写真か。どれどれ。」

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ジョーンズ「うむ、これだ!このマークに間違いないぞ!さすが名探偵だ。」

うめちゃん「良かったことよ、先生!」

ジョーンズ「堀江か・・・どうりで見つからないわけだ。私には全く縁のない場所だ。あそこは常にナウいヤングがフィーバーしている所だからな。」

うめちゃん「先生、それ全部死語よ。」

 

ジョーンズは早速準備にかかった。調べて見ると、南堀江が本店のようだ。ならば南堀江の方へ行かねばなるまい。通常は朝7時から開いていたようだが、今は緊急事態宣言を受けて時短営業をしており、8時から営業しているようだ。この辺りは10時を過ぎると周辺のお洒落なお店が開店し、若者が押し寄せてくるので、それまでに退却せねばならない。パンの販売とは別に、イートインスペースでのモーニングもやっているようなので、朝食も兼ねて行くことにした。

休日の朝なので大阪市内の交通量は少なく、あっという間に南堀江に到着した。

f:id:gatthi:20210505153038j:plain立花通り。通称「オレンジストリート」。カフェやブティック、雑貨屋などが立ち並び、週末には多くの若者で賑わう。ホットクロスはここから少し北へ歩いた所にあった。あの夢にまで見たシンボルマークが見えてきた。

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「遂に来たぞ、恋焦がれたこの場所へ!」ジョーンズは感慨のあまりしばらく遠目からお店を眺めていた。それに気づいた店員さんが不審に思ったのか、こちらを見て目が合ったような気がした。

f:id:gatthi:20210505154129j:plain8時ちょうどに着いたが、次々と車がお店の横に乗りつけていた。しかしイートインをする人はおらず、テイクアウトの人ばかりだった。これはチャンスだ。モーニングの神がジョーンズの頭上に降りてきたようである。入って左側がイートインスペースになっている。

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f:id:gatthi:20210505154623j:plainコロナ対策もしっかりとされているお店のようだ。パンも1つ1つ丁寧に包んである。パンは後で買うことにし、ジョーンズはまずモーニングをいただいた。

f:id:gatthi:20210505155320j:plainベーコンエッグ、サラダ、サンドウィッチにコーヒーのセットだ。やはりパン屋さん、サンドウィッチのパンが美味しい。イートインスペースを独占しながら、ジョーンズは悦に浸っていた。

ところがこのいい気分を害する事件が起きた。

自転車でやって来た男性がマスクもせずに入って来て、大きな声で「クリームパンない?」と店員さんに迫ったのだ。幸いクリームパンはまだ焼きあがっておらず、このモラルの低い男性は退却した。ジョーンズは思った。

「貴様が食べるクリームパンなど、この世のどこにもないわ。」

本当は外出自体を控えなければならないが、それではお店が潰れてしまう。1人1人が細心の注意を払い、何とかうまく経済も回しながら感染対策をやっていこうとみんなで頑張っている時にこの事態。テンションが下がってしまう。

モーニングは食べ終わった。とても美味しかった。さあ、持ち帰りのパンを選ぼう。

下がっていたジョーンズのテンションはすぐに戻ったのであった。

まずは、ホットクロスの名物だというカレーパンを選ぼう。選ぼう、というのは、何とカレーパンだけで8種類もあるらしいのだ。

f:id:gatthi:20210505161406j:plainあれ?今は7種類しかないぞ。また出てくるのかな?とりあえず1番人気だというカリカリミンチカレー」を選んだ。

f:id:gatthi:20210505161825j:plain選んでいる途中にも次々と美味しそうなパンが焼きあがってきた。もっと遅い時間に来れば棚が埋まってパン天国になりそうだが、やはり今の時期、人が動き出す前に帰りたい。

そして突き当りの棚に目をやると、遂にあの食パンの姿が見えた。

f:id:gatthi:20210505162259j:plain「おお~会いたかったよベイベー!」

ジョーンズの心は感動に打ち震えた。

「今日の昼ご飯もパン決定だな。」

食パンと、いくつかの惣菜パンを購入し、ジョーンズは無事、ナウいヤングが押し寄せる前に南堀江を後にしたのだった。

f:id:gatthi:20210505163621j:plain恐らくすぐに再訪するだろう。ジョーンズはそんな予感がした。

 

ジョーンズ「ただいま、うめちゃん。」

うめちゃん「どうだったの、先生?」

ジョーンズ「パンも見つかり、モーニングまでいただいて、考古学者冥利に尽きるな。」

いや、それは考古学とは関係ないだろう、とは決して口に出さないうめちゃんであった。よくできた秘書である。

ジョーンズ「よし、お昼の時間だ。買って来たパンをいただこう。うめちゃんも食べてくれ。」

うめちゃん「あたいも食べてよくて?」

ジョーンズ「もちろんだぜベイベー。」

2人はまず、名物のカレーパンをいただいた。

f:id:gatthi:20210508142650j:plainカリカリミンチカレー

見た目はどこにでもあるような普通の揚げたカレーパンだ。だが、中身は違った。

甘口の、やさしい味のミンチカレーが入っていたのだが、このカレー自体に凄く力が入っている。今までにないカレーパンだ。見た目が平凡な人ほど、意外な特技を持っていたりするものだ。これは他のカレーパンもまた買いに行かねば。

f:id:gatthi:20210508143223j:plainハムチーズ

これも見た目はよくある感じの、デニッシュ生地にハムとチーズが入っているパンだ。

だが外からはわからないがトローッとしたチーズが豪快に入っており、リッチな食感だ。生地も美味しー!

f:id:gatthi:20210508143802j:plain明太マヨちくわ

人気の具を集めたオールスター的なパンだ。最近ちくわを使ったパンをよく見かけるが、これは明太子がビシバシと効いており、一味違った。

ジョーンズ「うめちゃん、このパンの下の方にちくわの穴が見えるだろう。中にいる忍者がこれで呼吸をしているのだ。パンとんの術だ。」

うめちゃん「先生、早く食べて。」

f:id:gatthi:20210508144500j:plainモンブラン

まさかのパン屋さんでモンブラン。デニッシュ生地の中にはクリームてんこ盛りで、決してカロリーなど計算してはいけない代物だ。

ジョーンズ「うめちゃん、栗の下に締めの中華そばが載っているね。」

うめちゃん「先生、早く食べて。」

 

こちらのお店のパン、見た目は非常にオーソドックスなものばかりで、派手さはない。だが食べてみると、どれもが予想を上回る美味しさだった。

それがいい。

インスタ映えなど狙わず、真摯にパンの味を追求している姿勢がそこに見えた。

そして遂に翌日の朝、最大の目的であった「黄色い食パン」を食べる時がやって来た。

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塩麴の特上食パン

ジョーンズ「探したよ、君。どこに行っていたんだ。」

「知るか」と食パンが答えたような気がした。

前に買った時は名前をちゃんと見ていなかったが、塩麴を使っていたのか。それと黄色い色の因果関係はわからないが、味には影響しているようだ。生地がモチモチなだけでなく、すごく豊かな味がする。何種類かの食パンがあり、これが一番高いのだが、それでも1斤370円だ。最近の高級食パンと比べると断然安い。それでいて味は高級食パンと遜色ない。

ジョーンズ「やはり私は、この食パンが好きだ。また買いに行こう。うめちゃんはどうだった?」

うめちゃん「さっきから言おうとしてたんだけど、あたい、体が小さいから・・・」

f:id:gatthi:20210509114251j:plainちょっと多くてよ、先生。」

今日だけで1年分のパンを摂取したうめちゃんであった。

f:id:gatthi:20210509114602j:plain「また買いに来てくれよ、ジョーンズ!」 

ジョーンズの耳には自分に都合の良い幻聴がいつまでも響き渡っていた。

 

今日の1曲:Dawn「幸せの黄色いリボン」