電車の運転士になりたい。
子供の頃、誰もが口にした夢です。僕も珍しく、周りの子供たちと同じようにこの夢は抱いていました。しかし同級生の中に、一風変わった夢を語っていた少年がいました。
電車になりたい。
どこかで頭を打ってしまったのだろう。可哀想に・・・。とその当時は思っていました。しかしその約40年後、まさか自分が本当に「電車になる」ことになろうとは。
今から数年前、テレビ番組で衝撃映像を目にしました。自転車が線路の上を颯爽と走っていたのです。廃線になった鉄道の跡をサイクリングロードとして整備している所は最近よく見かけますが、これは違いました。線路がそのまま残っており、その上を自転車が疾走しているのです。こ、これは・・・!?その時、僕の脳裏にあの少年の言葉が鮮やかによみがえってきました。
人間が電車になっている。
まあ、電気は通っていないので正確には電車ではありませんが、これはもはや人間の姿にあらず。
僕も電車になりたい。
思わず中年男の口からアホな一言がこぼれました。
そして今から2年前、遂に僕は電車になったのです。
雲一つない晴天の下、それはそれは、夢のような時間でした。
ガタンゴトーン、ガタンゴトーン。
飛騨神岡~、飛騨神岡~。
プオーン、自転車が通過しま~す。白線の内側までお下がり下さーい。
トンネルに入りま~す。
吾輩は、特急ガッチである。
そんな非日常極まりない経験ができるのが、
レールマウンテンバイク「Gattan Go!!」
岐阜県飛騨市神岡町。観光地として有名な「飛騨高山」から車で約1時間北へ向かった山あいの所にこのスーパーアトラクションは存在します。
神岡町は鉱山の町として知られ、その鉱山からの貨物輸送を担っていたのが「神岡鉄道」でした。しかし時代の流れと共に貨物輸送がトラックでの輸送に切り替えられ、2004年、遂に廃線となってしまいました。
しかし地元の人々の神岡鉄道への愛情は、そこで消えることはありませんでした。
町のシンボルであり、地元民のルーツとも言うべきこの素晴らしい鉄道資産を何とか保存し、美しい町並みと共に子供たちの世代に残したい。そんな熱い気持ちが結実したのがこの「ガッタンゴー!!」」なのです。
鉱山の町としての強みを生かし、地元の鉄工所の方が設計したオリジナルの強力なメタルフレームにマウンテンバイクを固定し、ペダルを漕ぐと線路上を走るようになっています。
後輪が線路に接地しているので、本物の電車が通る時のように線路の継ぎ目の「ガタン、ゴトン」という感触が味わえるのです。
住民の方の想いと技術力、それが一体となったこのアトラクションは、正に「町おこしの理想形」です。
今では全国的に有名になり、他の地域でも同じように廃線跡を生かす取り組みが行われているようです。素晴らしい!
ちなみにこの「ガッタンゴー!!」。2021年現在はコースが2コースあります。
2年前に僕が経験したのが「まちなかコース」。
こちらは名前の通り、神岡の町をのんびりと走れるコースで、家族連れや初めての方に人気があります。乗車人数に合わせて、色々なタイプの車両を選べます。
まちなかとは言え、トンネルや高架橋もあり、それなりのスリルも味わえます。また、実際に使われていた駅が途中にあり、テンションが上がります。片道2.9㎞、往復5.8㎞の道のりです。
そしてもう1つが、「渓谷コース」。
こちらはひたすら山あいの渓谷を激走するスリル満点の絶景コースで、大人だけのグループやリピーター向けといえるでしょう。また、トイレや待合室などの施設も質素で、よりアドベンチャー感が高いです。
片道3.3㎞、往復6.6㎞の道のりです。
今回はこの「渓谷コース」を詳細にレポートします。
このアトラクションは天気に思いっ切り左右されるので、1年の間で雨の確率が低い時期を狙って予約しました。
ところが・・・・・
その日の天気予報は降水確率90%。
こういうイベントは晴れてなんぼでしょう。前日の16時までならキャンセル料金はかからないので、そうしようかと諦めかけたその時、鉄道の神様が僕の頭の中に勝手に侵入してきました。
「特急ガッチよ、お前は普通の雨ぐらいで運行を休止するのか。情けない。」
おっしゃる通りです、神様!僕は人間ではない。特急ガッチなのだ。警報級の雨風ならともかく、雨というだけで運休するわけにはいかない!
そしてアホな中年男は雨の中、「渓谷コース」の集合場所へ向かうのでした。
雨は尻上がりに強くなっていきました。
「まちなかコース」と「渓谷コース」は集合場所が違います。渓谷コースの場所はわかりにくいので、写真で説明しておきましょう。
高山から富山の方へ向かう国道41号線のゆずりあい車線の途中に、「漆山駅」の看板があるので左折します。
そのまま下ると赤い橋が見えてきます。
その橋を渡ると、
踏切をはさんで左が受付の小屋、右が駐車場です。
踏切と線路を目の当たりにして鉄道気分が高揚します。
この天気だけに、この日はさすがに大量のキャンセルが出たようで、僕らの組は4組だけでした。1つ前のグループは1組だけだったようです。
受付を済ませ、カッパを購入。コートとズボンで300円。靴カバーは50円。良心的です。
ずらりと並んだ自転車たち。壮観です。
スタート地点の漆山駅ホームが見えました。
注意事項の説明を受け、安全ベルトを自転車につなげば、準備完了。
先頭はスタッフの方がバイクで先導して下さるので安心です。
では、どんどん雨足が強くなる中、特急ガッチ出発進行!
うおーっ!雨だけど気持ちいいーっ!!
電動アシスト付きなので漕ぐのも楽々です。体力なんていりません。(あれ?電気が通っているぞ。じゃあやっぱり電車じゃないか。)
では、柏原芳恵さんの歌声をBGMに、「飛騨の車窓から」。
雨なの~に~、じてん~しゃです~か~ ♫
雨なの~に~、笑顔~がこぼれます~ ♩
雨なの~に~ ♪
雨なの~に~ ♫
楽し~み、また~ひと~つ~ (^^♪
景色の良さは渓谷コースの方が上ですね。晴れていればもっと絶景だったのでしょうが、雨でも十分綺麗でした。
トンネルを通過するのもこのアトラクションの醍醐味です。突入前は若干の恐怖を感じます。
中は真っ暗です。そしてヒンヤリしています。漕ぐスピードが思わず速くなります。
こんな体験はここでしかできません。
折り返し地点の「二ツ屋駅」に到着しました。
後続車両の到着を待ちながら、しばし休憩です。
看板の横にいる蜘蛛。誰も触れようとしていませんでしたが、余った鋼材で作られたのでしょう。ここでも神岡町の技術力の高さを感じました。
復路へ向けて、スタッフの方が自転車の方向転換をしてくれます。この手作り感がまたいいですね。
さあ、漆山駅に戻るぞ。
うわっ。こんな姿で走行していたのか。
あ、怪しい。月光仮面か。
復路は景色を見ることに専念したいので、写真はありません。
雨の中、無事に運行完了!
いや~、しかし・・・
キャンセルしなくて良かったーっっっ!!!
これから行こうと計画されている皆さん、雨だからといってキャンセルするのは愚の骨頂ですよ!カッパと靴カバーがあれば全然濡れませんし、晴れの時には見れない幻想的な風景も楽しめます。
そしてもう1つ、雨の日ならではの嬉しいことが。
「雨の日に来てくださってありがとうございました」という温かいお言葉と共に、素敵なタオルをくださいました。なんかこういうのが凄く嬉しい!
楽しかったー!もっと長い時間乗っていたかったです。
コース延伸の計画もあるそうなので、期待しています。また来ます!
予想外に楽しかった雨の運行を終え、特急ガッチは満足気に車庫へ戻って行きました。
車庫???
折り返し地点にはトイレがないので、出発前にすましておきましょう。
今日の1曲:Eric Clapton「Let It Rain」