がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

オレンジフィールズ・フォーエバー

モーニング省大臣、合致朝一(がっちともかず)。彼が引き起こした「朝寝坊事件」は国民の政治に対する信頼を著しく失墜させた。

 

にもかかわらず、辞任はおろかモーニング布教活動をこれまで以上に行うという「骨太の方針」まで発表し、全く悪びれることなくシャトレーゼのアイスをほおばっていた彼の姿は記憶に新しい。

その大臣としての資質が問われている中、新たなモーニング活動に動き出したという一報がもたらされ、我々報道陣は色めき立った。

大臣の「次の一手」により、内閣の支持率が大きく左右されるからである。

我々は記者会見場へと向かった。

 

「本日はお忙しい中、合致大臣の記者会見にお集まりいただき、ごめんやで。」

会見場で我々の目を引き付けたのは、妙な関西弁を駆使する進行役の女性だった。

いや、女性は女性なのだが、人間ではなかった。

 

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「進行役を務めさせていただきます、事務次官さくらやで。皆さんよろしくやで。」

んん!?この帽子を被った柴犬・・・どこかで会ったことがあるような・・・。思い出せないが初めて会った気がしなかった。

さくら「それでは合致大臣、頼むで。」

大臣「皆さん、ボンジュール。ご紹介にあずかりました合致です。えー、それではさっそく次の活動の趣旨についてお話いたします。

次のモーニングテーマはずばり、

『パンだらけの紅茶大会』です。」

“バシャバシャバシャッ“(フラッシュの点滅にご注意ください)

「明日の午前6時30分、天神橋筋商店街の北側入り口へお集まりください。朝から紅茶の世界に浸ることで、必ずや国民の皆様を幸せな時間へと導いてご覧に入れましょう。」

さくら「それでは、以上で本日の会見は終了するで。皆さん、明日もよろしくお願いやで。」

記者「大臣、質問はよろしいでしょうか?」

大臣「チャオ!」

 

翌日の朝、我々は天神橋筋六丁目へと向かった。

 

f:id:gatthi:20211010104943j:plain天神橋筋商店街

アーケード型の商店街としては日本一の長さを誇る、大阪を象徴する商店街だ。

安くて美味いお店が数多く立ち並んでいる一方、うさん臭いお店も同じくらい立ち並んでいる。いい意味でも悪い意味でも「ザ・大阪」な場所である。

写真は商店街の最北端、天神橋筋六丁目(てんろく)にある商店街の入り口だ。ここから天神橋筋一丁目(てんいち)まで3km弱にわたってアーケードが続いている。

今日の目的地は四丁目付近にあるようだ。その辺りはちょうどJRの天満駅や大阪メトロの扇町駅」があるのに何故わざわざ天六から歩くのだろう、と疑問を感じたが、どうやら京都方面から来た場合、天六で降りた方が電車賃がかなり安くなるようだ。さすが倹約家の大臣である。

「皆さんボンジュール、ではお店へ向かいましょう。」

大臣がさくら事務次官を伴って現れた。彼が何故フランス語の挨拶を好んで使うのか、もはや質問する記者もいなかった。

f:id:gatthi:20211010111446j:plainこの時間の商店街は空いているお店もごくわずかで、昼間の賑わいが噓のように静まり返っている。たまに自転車に乗った怪しげなおじさんが通るぐらいだ。このおじさん達がまた大阪らしさを感じさせてくれるのだが、もっと南の方へ行くとセーラー服を身にまとったおじさんが現れたりもする。まさに大阪ワンダーランドだ。

 

JRの高架を過ぎて少し南下した辺りで、お店に到着した。

f:id:gatthi:20211010200616j:plainORANGE FIELDS Bread Factory

f:id:gatthi:20211010200826j:plain天満で人気のカフェ「ORANGE FIELDS Tea Garden」の姉妹店で、こちらではパンと一緒に紅茶や珈琲の飲み放題が楽しめる。また、モーニングやランチのメニューもあり、朝7時から営業しているというのもありがたい。この商店街では貴重な存在だ。

f:id:gatthi:20211010201824j:plain開店時間には、まだ誰も来ていなかった。

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f:id:gatthi:20211010202006j:plainハード系ではなく、「街のパン屋さん」的なパンが並んでいた。なかなか美味しそうな顔をしている。

大臣「トーストやサラダにフリードリンクが付いたお得なモーニングセットもあるが、せっかく色々なパンがこれだけ並んでいるのだから、好きなパンを好きなだけ選び、そこにフリードリンクを付ける方が良い、と私は提案したい。」

f:id:gatthi:20211012205751j:plain記者「大臣!今日は紅茶大会ではないのですか?珈琲のようなものが見えますが・・・。」

さくら「寝起きはやっぱりコーヒーがええで。」

大臣「そ、そうそう。決して紅茶の茶葉の名前がわからなくてコーヒーに走ったわけではないぞ。」

我々報道陣も同じように好きなパンを選び、そこにフリードリンクを付けた。パンは奇をてらった物ではなく、分かりやすいパンが並んでいて好感が持てた。そして美味しかった。

大臣「それでは皆さん、いよいよオレンジフィールズさんの真骨頂である紅茶をいただきましょうか。さくら君、紅茶カップの使用方法を説明してくれたまえ。」

さくら「ええで。まず、レジで紅茶グラスをもらうんやで。それから、好きな茶葉を選んでスプーンで入れてや。」

f:id:gatthi:20211013204154j:plainさくら「それからな、湯を入れたら蓋を閉めるんやで。」

f:id:gatthi:20211013204309j:plainさくら「待ち時間は茶葉の種類によって変わるんやで。茶葉の所に説明書きがあるからよう見てや。」

f:id:gatthi:20211013204521j:plainさくら「時間が来たら蓋を開けてな、茶こしを取るんやで。」

f:id:gatthi:20211013204708j:plainさくら「ほんなら完成やで。そのまま飲んでや。」

 

なるほど、この紅茶グラスは良くできている。おかわりする時は何度でも新しいグラスに替えてくれるそうだ。

それにしても感心したのが、茶葉で置いてあるという点だ。大抵この手の飲み放題の場合、ティーパックが置いてあって、湯を注いで、というのが一般的だ。瓶に入った茶葉がずらりと並んでいて、しかも普段あまり見ないような名前のものが多い。中にはかなり高級な茶葉もある。

f:id:gatthi:20211013205329j:plainここで大臣が動いた。紅茶を飲もうとしているようだ。だが、茶葉の前で考え込んだまま、フリーズしてしまった。そしてさくら事務次官の耳元で何かを囁いた。

しかしその内容は丸聞こえだった。

「知ってる名前の茶葉がないんだけど・・・。」

さくら「UVAあたりが癖がなくて飲みやすいで。」

全て丸聞こえである。

そして言われた通りに「UVA」の茶葉を入れ、湯を注ぎ、「いつも最初はこの茶葉なんだよ」などと言い出した。聞こえていないと思っているらしい。

1杯目を飲み干すと今度は、

「ちょっとビターな感じの大人の茶葉ってどれ?」

さくら「ディンブラあたりがええで。」

やはり言われた通りに「ディンブラ」を入れた。そして一言。

「2杯目はディンブラに限るよね。」

やはり彼の大臣としての資質には疑問を感じざるをえなかった。

 

大臣「さて皆さん、こちらのお店にはもう一つ、必ず食べていただきたい名物があるのですよ。さくら君、よろしく。」

さくら「お店の売りである紅茶をパンと融合した夢の一品、

『てんしの紅茶アンパン』やで。

なんで『てんし』かと言うと、ここは『天四』だからやで。」

大臣「では店員さん、てんしの紅茶アンパンを人数分頼むよ。」

 

店員さん「8時以降でないと焼きあがりません。」

・・・・・・

大臣「皆さん、どうぞごゆっくりとフリードリンクをお楽しみください!」

 

それから我々は待った。ひたすら紅茶を飲みながら。しかしこれだけの種類の紅茶を飲んだのは初めてだ。しかもどれもが個性があり、美味しかった。知らない茶葉もあった。このフリードリンクは実に充実している。もちろん途中でコーヒーに戻るのも可能だ。

そして約1時間後、

f:id:gatthi:20211014205802j:plain遂に紅茶アンパンが焼きあがった。

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f:id:gatthi:20211014205920j:plainてんしの紅茶アンパン

これは確かに美味しかった。アンパンに紅茶の味がビンビンに効いたクリームが入っており、絶妙なハーモニーを奏でていた。待った甲斐があった。

f:id:gatthi:20211014210144j:plain紅茶にもよく合うパンだった。

 

大臣「それでは、以上で『パンだらけの紅茶大会』を終了します。さようなら。」

あれ?珍しく最後まで日本語じゃないか。フランス語の「さようなら」は発音が難しいので断念したのか?やはり彼が大臣というのはどうも・・・。

だがそれと対照的に、今回名を上げたのは、さくら事務次官だった。

そのキュートなルックス、博識ぶり、調子の外れた関西弁などにより一気に世間の注目を集め、検索ワードランキングのトップに躍り出た。

だがしかし・・・・・

 

翌週、さくら事務次官のスキャンダルが発覚した。

 

「週刊文秋」の最新号に度肝を抜くスキャンダラスな写真が掲載されていた。

俗に言う「分秋砲」が放たれたのだ。

 

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それはカロリーモンスターとして悪名高い、ディーン・マリトッツォ氏とのツーショット写真だった。

このクリームまみれのスキャンダルに世論の批判が集中した。

モーニング省の事務次官がそんなものを平然と食べていて、国民に対して健康を語れるのか?

だがさくら事務次官はすぐにツイッターで反撃に出た。

 

「食べたいものも食べないで、健康とはいえないんやで。」

f:id:gatthi:20211015204851j:plainううっ。何故か説得された気分になってしまう。恐るべしさくら事務次官

しかし彼女とよく似た柴犬に、私は会ったことがあるような気がする・・・のだが、

思い出せない。情報を求む。

 

今日の1曲:あみん「待つわ」