がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

潜入!藤田美術館

大阪府北部にある普通の住宅街。その中腹に、かの高名な考古学者、ガッチー・ジョーンズの事務所が佇んでいた。

最近、彼の仕事は激減していた。コロナ禍であるのも理由の一つだが、世紀の大発見として世間を騒がせた「古代飛騨人のミイラ」が、実はただのお土産のもなかであることが発覚し、大バッシングを浴びていたのである。

 

そんな彼のもとに、久々の依頼が舞い込んできた。

もちろんその一報はいつものように、秘書の柴犬うめちゃんによってもたらされた。

・・・だがジョーンズはふてくされていた。

f:id:gatthi:20211209194841j:plainうめちゃん「久しぶりに調査依頼が来てよ、先生。」

 

ジョーンズ「ふーん、調査依頼?わしもう眠たいねんけど。」

 

うめちゃん「美術館の調査依頼よ。大阪城の近くにある藤田美術館。ここを調べてほしいとのことよ。」

 

ジョーンズ「美術館~?あー、無理無理。わし芸術の事はまるでわからん。岡本太郎が爆発してるのは何となくわかるけど。」

 

うめちゃん「明治時代の実業家が集めた美術品が大量に所蔵されているとのことよ。建て替え工事が最近終わって、2022年の4月にリニューアルオープンを控えていて、オープン前に中を調査して欲しい、という依頼が来てよ。」

 

ジョーンズ「そんなもん、芸術のことをわかったような顔をしてる金持ち学者に行かせたらいいんだよベイベー。わしゃ行かん。」

 

うめちゃん「美術館の中に美味しい団子をいただける茶屋があって、そこが先行オープンしてるそうよ。じゃあ、断ってくるわ。」

 

ジョーンズ「うめちゃん、それを先に言ってくれ。すぐに出発の準備を。」

 

結局彼の頭の中は食べることしかないようだ。さすがだジョーンズ!

我らのダークヒーロー!早く調査へ行ってこい!

 

大阪市都島区網島町。

桜の名所として有名な「毛馬桜ノ宮公園」の中にその美術館はあった。

大川沿いに広がるサイクリングロードとしても有名な、大阪市民の憩いの場所である。

f:id:gatthi:20211213202101j:plain藤田邸跡公園

素敵な日本庭園が広がるこの公園の中に噂の美術館があるらしい。入口の前で老夫婦が、「ここ、タダ(無料)かなあ?」と困っていた。ジョーンズが「タダですよ」と教えてあげると、最高級の笑顔で中へ入って行った。

本当に大阪の人は「タダ」が好きだ。それだから怪しげな健康食品ショップに行列ができ、だまされるのだ。

f:id:gatthi:20211213203904j:plainジョーンズ「あれ?この地図に団子屋は書いてないぞ。」

 

うめちゃん「まずは庭園の散歩をしてよ、先生。団子はその後のことよ。」

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f:id:gatthi:20211213204213j:plainジョーンズ「団子屋が見えてこないなあ。」

f:id:gatthi:20211213204745j:plainうめちゃん「あら、向こうに素敵な新郎新婦がいてよ、先生。」

f:id:gatthi:20211213204913j:plainうめちゃん「記念撮影ね。素敵なことよ。」

 

ジョーンズ「団子まだ~?」

 

すると何やら二重の塔が見えてきた。

f:id:gatthi:20211214195732j:plainジョーンズ「おっ!あの塔が団子屋か?」

 

だが、違ったようだ。

その少し先、左側に今度は急に近代的な建物が見えた。

f:id:gatthi:20211214200042j:plainジョーンズ「これは違うな。」

 

そしてそのまま真っすぐ進むと・・・

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f:id:gatthi:20211214200339j:plain外へ出た。

凄い門構えだ。さっきのは裏口だったのか?

 

うめちゃん「あれ?おかしいことよ。」

ジョーンズ「???」

 

2人は途方に暮れた。とりあえず、道路に沿って歩いてみた。

すると・・・・・

 

f:id:gatthi:20211214200957j:plain突如近代的な巨大建造物が出現!

 

うめちゃん「あら?さっきの建物じゃなくて?」

ジョーンズ「うん。それっぽいぞベイベー。」

 

近づくと名前が書いてあった。

f:id:gatthi:20211214201324j:plain藤田美術館

うめちゃん「ここだわ、先生!」

ジョーンズ「だーんーごー!だーんーごー!」

 

だがこの建物の、ある際立った特徴に2人は驚いた。

f:id:gatthi:20211214202019j:plain外から丸見えじゃないか。

そう、壁一面がガラス張りになっている。またその面積の巨大なこと!

これは動物園の動物たちの気持ちが味わえそうだ。

2人は緊張の面持ちで中へ入った。

f:id:gatthi:20211214202324j:plainあみじま茶屋

f:id:gatthi:20211215200215j:plain中は異常な広さだ。席と席の間隔も異様に開いていて、凄く贅沢な空間の使い方をしている。

f:id:gatthi:20211215201522j:plainこのカウンターで注文するようだ。

お茶と団子のセットで500円。

お茶は抹茶、番茶、煎茶から選べる。番茶と煎茶はおかわりができるが、やはりここは抹茶だろう。

抹茶は自分で淹れることもできるが、ジョーンズはきっぱりと断った。手首の返しに自信がないようだ。うめちゃんに至っては、そもそも手首がないのだから自分でするのは不可能であった。

f:id:gatthi:20211215202038j:plainシャカシャカシャカ。

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繊細な作業だ。ジョーンズがやればビールのように泡立ってしまうことだろう。

お茶が完成したら、次は待望の団子だ。

f:id:gatthi:20211215202428j:plainん!?なんか小さいぞ。

コンビニでよくレジの横に置いてあるみたらし団子を想像していたジョーンズは面食らった。

f:id:gatthi:20211215202742j:plain完成。醤油とあんこの二刀流だ。

「ビッグダンゴー、オオタニサン」

いや、全然ビッグじゃない。かなり小さいぞ。

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うーん。なんて上品な。ジョーンズには似合わない。

 

ジョーンズ「私はこれで足りるのだろうか。」

 

うめちゃん「あたいにはちょうどよくてよ、先生。」

f:id:gatthi:20211216194715j:plainジョーンズ「広すぎて、どこの席で食べるか迷うな。」

f:id:gatthi:20211216194848j:plainとりあえず適当な場所に座り、食べることにした。

開放感があり過ぎる、全面ガラスの方へ向いて座ってみた。

するとその巨大なガラス越しに、眼前に広がったのはなんと・・・

 

「ホームセンターコーナン」の勇姿だった。

 

ジョーンズ「・・・・・。うめちゃん、なんかお店の雰囲気と外の風景が違い過ぎないか?」

 

うめちゃん「そ、そうね。雰囲気ぶち壊しなことね。でも先生、仕方なくてよ。

 

ここは大阪だから。

 

ジョーンズ「そ、そうだな。大阪だからな。何でもありだな。」

 

別にホームセンターを非難しているわけではない。しかしこれだけ外観や内装、お菓子や器にもセレブ感を感じさせるこの空間から見えるのが、生活臭あふれるホームセンターの風景。これでいいのか?とジョーンズが感じたのも無理はない。

 

しかしさすがジョーンズ。目ざとく端っこにある小上がりの空間を発見したのだ。

f:id:gatthi:20211216200407j:plain畳が敷いてある、素敵な和空間だ。

 

ジョーンズ「あそこならホームセンターが視界に入らず、さっき通った庭園を観ながら食べれるんじゃないか?」

 

その通りだった。

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うめちゃん「こっちを見るのが正解ね。素敵な空間ね。」

 

しかしこの風景を眺めながらジョーンズは思っていた。

「わざわざ公園を歩かなくてもよかったんじゃないか?」

結局うめちゃんのお散歩に、うま~く付き合わされたようだ。女性は怖い。

 

団子の方は、あまりにも小さいが抜群に美味しかったようだ。あんこは上品な甘さで、餅もいい塩梅であった。抹茶の味には疎いジョーンズだったが、わかったような顔をしながら味わって飲んでいた。

2人が帰る頃には、広いので気にならないが、満席になっていた。

来年の4月に美術館がオープンすれば、もっと大勢の人々が押し寄せるに違いない。

団子とお茶をゆったりとたしなむには、今がチャンスかもしれない。

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広々とした明るく不思議な空間でいただく、いつもは口にしないような上品なおやつ。

この非日常な体験に2人共満足したようだ。

事務所へ戻ってから、ジョーンズはさっそく依頼主への調査報告書をまとめた。

 

ジョーンズ「うめちゃん、さっそくこれを依頼主へ届けてくれ。」

 

しかしそれを受け取ったうめちゃんは不審に思った。

書類があまりにも薄っぺらかったのである。

心配になったうめちゃんは中身を確認してみた。

するとそこには、1枚の紙に、たった1行だけ文言が書いてあった。

 

「ビッグダンゴガタベタイヨー、フジタサーン!」

 

やはりあのサイズでは足りなかったか・・・と思うと同時に、この事務所の行く末に一抹の不安、いや大いなる不安を感じたうめちゃんであった。

 

今日の1曲:Eagles「魔女のささやき」