北京オリンピックの感動的な展開に、じわじわと盛り上がりを見せる日本列島。
国民の多くがテレビでその熱い戦いに声援を送っていた時、突然ニュース速報のテロップが流れた。
「コナズ珈琲がモーニングメニューをリニューアル。これに対し、モーニング省が立ち入り検査に入る予定。」
このテロップは熱戦に夢中になっていた国民のテンションを一気に下げてしまった。
多くの人々を大いなる不安に陥れたのである。
「丸亀製麺」と同じ会社が手がける、ちょっと高いがみんな大好きコナズ珈琲。
いい方向にリニューアルされれば問題はないのだが、モーニング省が調査に入るということは、どうやら「改悪」の方らしい、という噂が巷で広がっていった。
そして数日後、記者会見が行われ、そこで調査報告がされることになった。
会見場には国民の関心の高さを示すように多くの報道陣が詰めかけていたが、それを切り裂くように鮮やかな黄色のオープンカーが会場前に現れた。
モーニング省、陰のNo.1と言われるさくら事務次官が到着したのだ。
さくら「マスコミの皆さん、今日はよろしくやで。」
今日は愛車の日産プリメーラではなく、ダイハツ・コペンでの登場である。
休日にこの車で峠を攻めているのを何度も目撃されているので、恐らくセカンドカーなのであろう。さすがエリートセレブだ。
そしてそれから数十分後、会見開始1分前に、合致大臣が到着した。
こちらは何と、特急列車を一両貸し切っての登場である。
大物政治家ならではの、黒い力を感じずにはいられなかった。
合致大臣「遅くなって申し訳ない。シャトレーゼに寄ってたら遅くなっちゃったよ。」
夢の特急「ワイドビューひだ」でのド派手な登場に、我々は度肝を抜かれた。
合致大臣「それではさっそく、会見を始めます。」
記者「大臣、ワイドビューひだに乗ったままですが・・・」
合致大臣「この場所が落ち着くんだよね。悪いがこのまま続けさせてもらうよ。」
こうして今後の朝食の命運を握る会見が始まった。
合致大臣「皆さまご存じの通り、先日、我が国の朝食を支え続けてきたコナズ珈琲がモーニングメニューのリニューアルを行いました。ところがこれがとんでもない『改悪』だったのです。これは未曾有の忌々しき事態です。
政府としましては、これを1860年の『桜田門外の変』以来の大事件と位置づけ、
そして我々は、コナズ珈琲への強制立ち入り検査に踏み切ったのです。
ここからは、さくら事務次官の方から説明していただきましょう。ではさくら君、よろしくお願いします。」
さくら「今回調査に入ったのは、私がいつも行く大阪の『寝屋川店』やで。
綺麗な公園の前にある、居心地抜群のええお店やで。」
コナズ珈琲寝屋川店
さくら「いつものな、窓際の席で食べたんやで。ここがな、明るくてめちゃめちゃ気持ちええんやで。開店同時の7時に来ると席が選びたい放題やで。」
さくら「ほんならまず、以前のモーニングを見てもらうで。」
さくら「凄いバランスいいやろ?このモーニングがめっちゃ良かったんやで。
次に、リニューアルされたモーニングを見てもらうで。」
記者「お、美味しそうに見えますが・・・。」
さくら「よう見てみ。ソーセージと目玉焼きがなくなり、サラダに入ってたトマトもなくなってるやろ?ヨーグルトの量も減って、なんか全体的に見て貧相になったやろ?
あとな、これは気のせいかもしれんけど、パンケーキが小さくなった気がするんやで。
しかも写真では2枚やけど、ほんまは1枚だけやねんで。見るに見かねて1枚トッピングしたんやで。それでも貧相やろ?
あとな、今回の最大の問題はな、新たに導入された『スキレット・オムレツ』の存在やねん。」
さくら「これな、横にある変わった色のデミグラスソースをかけて食べるねんけどな、なんか微妙な味やねんで。何もつけんでも、軽く塩味がついてるから、つけん方がええで。オムレツ自体は美味しいで。
次に、新しいメニュー表を見てもらうで。」
さくら「これな、トッピングなしでは厳しいで。ソーセージ or ベーコン、目玉焼き、ハッシュドポテト、どう考えても全部いるで。
私思ってんけどな、これって結局、
実質的な値上げやで。
もともとここのモーニングは安くないのにな、これはあかんで。
更に言うとな、以前はモーニングのメニュー以外にもこんな物が注文できてん。」
さくら「大臣がな、『ダイナマイト・モーニング』や言うてな、よう食べてたんやで。
もうそれもできひんで。」
記者「もう、コナズ珈琲のモーニングに未来はないのでしょうか?」
さくら「いや、それでもな、コナズ珈琲にはこれからも国民の朝活を支えていって欲しいんやで。
そこでな、モーニング省として提案したいのはな、
『カスタマイズ・モーニング』やねんで。」
バシャバシャバシャッ(フラッシュの点滅にご注意ください)
さくら「これは何かと言うとな、まずベースに一番シンプルな『ベーコンプレート』を注文するんやで。これはベーコンをソーセージに変えることもできるんやで。
そこにな、目玉焼きとハッシュドポテトをトッピングして、更にパンケーキを1枚追加するんやで。
ほんならな。こんな感じになるんやで。」
さくら「だいぶ前の感じに戻ったやろ?」
さくら「これやったらな。パンケーキも3枚食べれるし、結構満足できるんやで。まあそれでも前の方が良かったけどな。」
しかしこれに対し、記者の間から一斉に疑問の声が上がった。
記者A「しかし事務次官、この注文だとかなり高額になってしまいますよね?
ざっと計算したところ、珈琲を基本的な『ハワイコナブレンド』にすると1500円ぐらいになりますよ。」
記者B「モーニングで1500円なんて馬鹿馬鹿しい!よくのうのうとそんな提案ができましたね。」
記者Ⅽ「そんな提案が国民の理解を得られるはずがないでしょう!こんな会見、時間の無駄ではないですか?」
さくら事務次官がこれに対し何かを言いかけたその時!
これまで沈黙を保っていた合致大臣が突然口を開いた。
合致大臣「君たち、晩ごはんを外食にする時にはどれぐらい使うんだ?」
記者B「晩ごはんなら、まあ2000円ぐらいですかね。」
合致大臣「飲みに行く時は?」
記者A「飲みの時なら、3000円は使うでしょうね。」
合致大臣「夜にそれだけ使うのは躊躇しないくせに、朝食には使えない、というのはおかしくないかね?」
記者C「でも、モーニングというのは安いもんでしょう。」
合致大臣「その旧態依然とした既成概念は捨てたまえ。だいたいね、晩ごはんの後なんてすぐに寝るんだから、そんなに豪華なものを食べなくていいんだよ。
それを世間は『素敵な豪華ディナー』などともてはやし、寝る直前の食事に無駄にお金を使っている。
本当は朝食が一番大事なんだよ。朝起きたての体に栄養を注入し、脳を目覚めさせ、その日1日の生活に活力を与える。
ところがどうだ。君たちは愚かにも朝食への投資を渋り、少しでもモーニング代を安くしようと躍起になっている。
朝食をしっかり取っていれば、昼と夜は粗食でいいんだよ。
もうディナーにお金をかける時代は終わったのだ。」
我々報道陣は静まり返った。
今まで「ダメダメ大臣」と揶揄していた男に諭されてしまったのだ。
ぐうの音も出なかった。
やはり仮にも大臣まで上り詰めた男なのだ、と我々は気づかされた。
合致大臣「それではさくら君、とどめの一言を。」
さくら「あんたら、
もっと朝食を大切にしいや。」
そう言い放ち、2人は会見を切り上げ颯爽と立ち去って行った。
あとに残された我々報道陣は悶々とした気分のまま、その場に立ち尽くすより他なかった。
私は次の週末の朝7時、コナズ珈琲寝屋川店へ行ってみた。
すると1日の始まりにエールを送るかの如く、神々しい陽の光がコナズ珈琲に差していた。
そして私は、気が付けば大臣たちが提案したモーニングメニューを注文していた。
確かに素晴らしい時間であった。
その後、その日1日がいつもより幸せに過ごせたような気がしたのだ。
どうやら我々は勘違いをしていたようだ。
合致朝一、彼こそはモーニング大臣として相応しい男なのかもしれない。
しかしその日の夜、私はとんでもない場面を目撃することになる。
かっぱ寿司の前を通りかかった時、偶然見てしまったのだ。
合致大臣が寿司をむさぼるように食べまくる姿を。
昼と夜は粗食にするんじゃないのか?
私は前言を撤回する。
やはり彼はダメダメ大臣である。
今日の1曲:The Moody Blues「The Morning」