私の名は合致大五郎。
自分で言うのもなんだが、「北摂の名探偵」とは私のことだ。
その極めて優秀な探偵である私の元に、日本政府からの依頼が舞い込んだ。
私は政治家が嫌いだ。
特に選挙中の笑顔が気持ち悪い。
私はすぐにその笑顔の裏のことを想像してしまう。そしてその想像が際限なく膨らみ、吐き気を催してしまうのだ。
「モーニング省」大臣、合致朝一。この男も嫌いだ。
彼は私の遠い親戚に当たるのだが、あまり人には言わないようにしている。
彼には常に黒い噂が絶えない。
シャトレーゼのアイスを食べる為なら、いかなる手段もいとわない、と言われている。
シャトレーゼのアイスの中で最も美味しいとされている「北海道赤肉メロン」。
これのお店の在庫分を根こそぎ買い取り、人々への供給を途絶えさせてしまったいう恐ろしいエピソードはあまりにも有名だ。
だから私は最初に「モーニング省」という文字を見た時、依頼を断ろうと思った。
しかし依頼人の名前が大臣ではなく、さくら事務次官であるのを見て思いとどまった。
エリート官僚でありながら国民の健康を第一に考え、不逞の輩に対しては毅然とした大阪弁で論破する、彼女の生きざまには非常に好感を抱いていたからだ。
以下がさくら事務次官からの依頼文である。
「拝啓、大五郎殿。
今日はな、あんたにある噂の真相を突き止めて欲しいんやで。
その「ある噂」というのはな、「びっくりドンキー」て知ってるやろ?
ハンバーグレストランの。
私はいつもな、「チーズバーグディッシュ」ばっかり注文するねんけどな、このドンキーに最近、信じがたい噂が広がってるねんで。
それがなんとな。
8時からモーニングをやってるという噂やねんで。
こんなん信じられるか?
ほんまやったら夢のようなモーニングやで。
まあもともと24時間営業の店もあるけどな。ダラダラと開けてるだけやろ?
それがな、今回ははっきりと「モーニング」というキーワードで攻めて来たんやで。
私はモーニング省の職員として、これを噂のままに放置するわけにはいかんねんで。
と思ってこないだ行って来てんけどな、なんか開いてるのか閉まってるのかわからんかってん。なんか入口が薄暗~いねん。気持ち悪いから入らんかってん。
だからな。あんたにちゃんと調べて来て欲しいんやで。
ほんなら、よろしく頼むで。」
うーむ。いかにもIQの高そうな、知性溢れる文面だ。
そうか・・・あの「びっくりドンキー」が・・・。
ほんまやったらめっちゃええやんけ!!
・・・失礼。思わず興奮して取り乱してしまった。
びっくりドンキーは私も大好きだ。
ミスド、マクド、サイゼ、ケンタなど、世の中には魅惑のチェーン店が無数に存在するが、この「びくドン」も私の中ではかなり上位に位置するお店なのだ。
この依頼は私にとって天命と言ってもいいだろう。いや、この依頼は私にしか解決できまい!さすがさくら氏だ。お目が高い。
そして私は断言する。
「私もチーズバーグディッシュが大好きだ」、と。
久しぶりに私の探偵魂に火が付いた。
さっそく翌日の朝、いつもひいきにしている「びっくりドンキー」へ向かった。
8時ちょうどに到着した。
びっくりドンキー千里店
まず私が不安になったのは、外の看板に書いてある営業時間が、11時~になっていたことだ。本当にモーニングなどやっているのだろうか?
そしてこの後、私を更に不安に陥れる光景が目の前に広がった。
ここのドンキーは少し変わった造りになっていて、手前にある「シャトレーゼ」を通過しないとドンキーへ入ることができないのだ。
しかしシャトレーゼの営業開始は9時からである。
果たして開店前のお店の中を通過してもよいのか?という疑問が湧く。
実際、入口を入ってすぐの所に搬入用のカーゴが鎮座している。
そしてコンテナから店員さんが商品を出し、陳列作業に精を出している。
どう見ても入っていい雰囲気ではない。
しかも奥に見えているドンキーは開店している感じではない。さくら氏が言っていたように、確かに薄暗いのだ。
ここで一般人なら引き返すところだが、私は勇気ある名探偵である。
搬入中のシャトレーゼ店内を勇猛果敢に突破した。
搬入作業に勤しむ店員さんの横を通り、遂にびっくりドンキーの入り口へとたどり着いたのだ!
暗い・・・。
扉は開いているのだが、お化け屋敷の入り口のような空気感だ。
しかし足元を見ると、確かにモーニングメニューのポスターが貼ってあった。
何故こんなに申し訳なさそうに貼ってあるのだ?
本当にモーニングなんてやる気があるのか??
謎が深まるばかりである。
思い切って中へ入ってみたが、まるで人気を感じない。
しばらく店内を眺めていたが、誰もいない。
もう帰ろうかと思ったが、ダメ元で受付の機械で番号札を抜いてみた。
すると奥の方から、
「いらっしゃいませ~!」
早よ出て来てよっっ!!
・・・失礼。また取り乱してしまった。
モーニングを始めたものの、本当に客が来るとは思っていなかったのかもしれない。
私は遂に未知の世界「朝のびっくりドンキー」に足を踏み入れた。
この一歩は小さいが、人類にとっては偉大な躍進だ。と誰かが言っていた。
着席した時、私は不思議な感覚に襲われた。
いつもはちょっと暗めの店内にムーディーな灯りが灯っている印象だが、朝は違う。
照明を付けずに、吹き抜けからの太陽の光を店内に取り込んでいる。
これが新鮮だ。いつもとは一味違う、さわやかドンキーである。
メニューを見た。
いつも食べる「バーグディッシュ系」もあるが、やはりモーニングならではのメニューを注文したいと思った。
「卵かけご飯」のセットもあるが、全く「びくドン感」を感じないので却下。
そこで「トーストセット」に狙いを定め、「チーズトーストセット」を注文した。
厚切りのパンにびくドン感のあるチーズが載っている。なかなかいいぞ。
そしてこのモーニング最大の売りが、
珈琲だ。これがなんと11時まで何度でもおかわり自由なのだ。
これは素晴らしい。素晴らしいのだが・・・何かが足りない。
「あれ」が足りない。
びっくりドンキーに来て「あれ」を注文せずに帰るなど、不届き千万。
今までびっくりドンキーへ来た時の「あれ」の注文率は、99%である。
注文しなかった時の1%を未だに後悔している。
もう後悔はしたくない。
「あれ」を追加注文した。
ミニマム チーズバーグディッシュ
これを食べずにドンキーからは帰れない。
しばらく食べないと禁断症状を引き起こす危険な一品である。
朝は普通のものより小さいミニマムサイズが用意されている。
うむ。完璧なモーニングだ。
パンを食べながらご飯を食べ、みそ汁を飲みながらコーヒーを飲む。
和も洋もないごちゃ混ぜカオスが非常に強い「びくドン感」を放っている。
値段は張るが、チェーン店でここまで満足できるモーニングはなかなかないだろう。
気持ちの良い朝日が差し込む店内で、コーヒーをおかわりしながらゆっくりとくつろいだ。
もともと席が大きくて居心地が良いびっくりドンキーだが、まだモーニングをやっていることへの認知度が低く、客もまばらなので、余計にくつろげるのだ。
さくら氏へ良い報告ができそうだ。
結局お店を出る時には9時を過ぎていた。
9時といえば・・・
シャトレーゼの開店時間である。
朝時間のびくドンでは敢えてアイスを提供せず、出て来た所をシャトレーゼの誘惑が襲い掛かる。何という狡猾なやり方であろうか。
私はびっくりドンキーを出る時、文豪「川端康成」の小説の一節を思い出した。
びっくりドンキーを抜けると、
そこはシャトレーゼだった。
この後の展開は言わずもがな、である。
買っちゃうよね~!!💛
・・・失礼。また取り乱してしまった。
うひゃ~ひゃ~っっ!!!
・・・失礼。
今日の1曲:The Animals「朝日のあたる家」