がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

父とシャトーブリアン。

「父の日」

この言葉を聞いて哀愁を感じる人は少なくないでしょう。

 

世間での「母の日」との扱いの違いは歴然です。

「母の日」の花屋さんで巻き起こるフィーバーぶり。そんな光景は「父の日」では全く見ることができません。

 

「父の日」にスーパーへ買い物に行きました。

すると何の変哲もない、普段から売り場に並んでいるものに対して無理やり「父の日」というプラカードが掛かっています。

 

「お父さん、いつもありがとう!」という一見泣かせるコメントの入ったプラカードが色々な商品に掛かっています。

 

でもそのプラカードが何と、

 

ちくわに掛かっていました。。

 

・・・・・。んんっっ!??

 

ち、ちくわを「父の日」にあげろと・・・。

 

「お父さん、いつもありがとう!日頃の感謝を込めて、スーパーでちくわを買って来たよ!」

 

 

 

「なめてんのかっっ!!このクソガキゃあああっっ!!」

 

と言いたい気持ちを押し殺して笑顔で「ありがとう」と言っている世間のお父さんの気持ちを思うと、切なさで押しつぶされそうになります。

 

いや、ちくわは何も悪くないです。無類のちくわ好きパパもいるでしょう。

 

しかし僕が言いたいのは・・・そこではない!

 

「父の日」にはどうしても力が入ってしまいます。

 

というのも僕は高校生の時に母を病気で亡くしているのですが、その後の父親は再婚もせず、ひたすら働いて僕と兄を社会人になるまで養ってくれました。

 

その大恩を忘れるはずがありません。

 

だから僕の「父の日」はスーパーのちくわで終わらせることはできないのです。

 

毎年、「母の日」には仏壇へ花束を、「父の日」には父が欲しがっていそうな物を贈っています。

しかし父への贈り物も、そろそろネタ切れになって来ました。何が欲しいか聞いても気を使って答えてくれません。

 

先月、奥飛騨旅行へ父を連れて行きました。

この旅行を思いのほか喜んでくれました。

宿泊先の「槍見館」という宿が素晴らしいというのも大きいのですが、それと同時に、父は「思い出」を欲しがっているんじゃないか、という気がしてきました。

 

だから今年の「父の日」は、思い出を作りに行くことにしました。

どんな思い出がいいだろうか?

しかし僕が力になれるのは、一択です。

 

「アホ息子と美味しいものを食べた思い出」

 

これしかない!

 

そして勉強には全く生かされることのなかった僕の脳みその中から膨大な量のグルメデータを引き出し、お店の選定に入りました。

 

そして見事に「父の日グルメ大賞」の座を射止めたのは、

エペ・クープ

大阪府吹田市。JR吹田駅前にある「旭通商店街」を入ってすぐの所にある、とんかつのお店です。

北新地の名店「エペ」から独立された人柄のいい大将が営む桃源郷です。

昨年の結婚記念日にここで食べたシャトーブリアンの凄さをこのブログでもお伝えしましたが、その時、いつか父にも食べさせてあげたいと思っていたのです。

 

この「エペ・クープ」へ父が入場する感動的な記念写真を撮ろうと、先に父に入ってもらいました。

ところが・・・

ダイソンの掃除機で吸い込まれたかの如く、凄まじい速さで入って行ったので、シャッターを押した時にはもう暖簾の向こう側にいました。
お腹が減っていたようです。

 

席はカウンター6席のみ。

昼は予約ができませんが、夜はできるので、絶対に予約が必要です。飛び込みで行くのは無謀です。

シャトーブリアンを食べたい時は、予約の時に取り置きをしてもらう必要があります。

それだけシャトーブリアンは希少なのです。

だからシャトーブリアンが無限に出てくるようなお店は怪しいですよ。

偽ブリアンかもしれません。

 

では、夢のコース開宴です!

「父に捧げるシャトーブリアン

父を口実に自分も食べる。

 

ここは竜宮城?

いきなり運ばれるお洒落な一品。

鹿児島名物 豚みそ

九州らしい、濃厚な味わいの味噌をつけていただく新鮮な野菜。

これだけでこのお店の実力がうかがい知れます。

否が応でも高まるメインへの期待。

その後、iPadのような板が運ばれてきます。

これは後でトンカツに付ける「塩」です。渋い。

塩とソースだけのメニュー表があります。凄い種類の多さです。

テーブルの前の方にいくつか並んでいますが、ないものはリクエストすると出してもらえます。でも結局は、最初に出てくる塩が一番美味しいと思います。

 

そして遂に、父の期待を一身に受けながら、

皇帝ブリアン降臨!!

シャトーブリアン

なんという美肌でしょう!!

この豚さんは生前、高級エステに通っていたのでしょうか?

この極上豚さんに絶妙な厚みの衣をまとわせる大将の魔術。

異次元のトンカツです。

美味い、美味すぎる。父もあまりの美味しさに興奮を隠しきれない様子でした。

それまで上品なお店の雰囲気に委縮していたのか、口数少なめだった父が急に饒舌になりました。恐るべしブリアン効果。

全然油っぽさを感じない、正に豚界の皇帝。

締めはさっぱりと、ヨーグルト&コーヒーで。

完璧なコースです。

これで3000円を切るというのが信じられません。

この肉レベルを牛肉で求めたら1万円ぐらいはするでしょう。

豚さんバンザーイ!ごちそうさまでした!

 

父も大満足だったようです。

お店を出て駐車場まで歩いている途中、父が質問してきました。

 

父「今日の肉、何ていうんやったっけ?」

 

僕「シャトーブリアンやで。」

 

父「ほー、そうか。シャトーブリセムな。」

 

 

 

え!??

 

ブ、ブリセム???

 

どうなったら「アン」が「セム」になるわけ???

 

でも父は昔から「誤字脱字の多い男No.1」の座を欲しいままにしているので、訂正せずに聞き流しました。

 

数日後、父から電話がありました。

 

父「こないだ連れて行ってくれたトンカツのお店、何ていう店やった?友達から聞かれたんやけど、忘れてもうて。」

 

僕「エペ・クープやで。」

 

父「ああ、そうか。エテ・クーペな。」

 

僕「違う!エ・ペ・ク・ー・プ!」

 

父「ああ、そうか。エペ・クーペ。」

 

「違うっっ!!」

 

この後、さらに何度か訂正しながら店名はやっと覚えてもらったのですが、

 

父「肉は何やった?」

 

僕「シャトーブリアンやで。」

 

父「そうか。サトーブリアンな。」

 

 

今度はそっちかいっっ!!!

 

誰やねん、佐藤ブリアンて。またいてそうやし、そんな名前の人。

 

友達に誤った情報が流れてはいけないので、今回は時間をかけて訂正しました。

 

しかし友達に伝える時、ちゃんと言えたのかどうか、それはわかりません。

 

恐るべし、昭和の誤字脱字王。

 

ま、何でもいいから幸せに長生きしてくれよ、親父!

 

いつもありがとう!

 

今日の1曲:Queen「父より子へ」