少年は「茶碗蒸し」が大嫌いでした。
いや、正確には中に入っている「銀杏」が大嫌いでした。
せっかく機嫌よく美味しく食べていたのに、突然口に入って来る銀杏の苦い味のせいで、茶碗蒸し自体が嫌いになってしまったのです。
お椀の中で保護色になっており、見ていても気づかずにパクッと食べてしまうことがあります。
見えざる敵の恐怖。
見落として口に入れた瞬間に炸裂する苦み。
この精神的な恐ろしさから、少年は茶碗蒸しの中に潜む銀杏のことを「食べる地雷」と呼んでいました。
柿、牡蠣、グリーンピース、らっきょうと並んで「世界五大嫌いな食べ物」として少年を悩ませていたのでした。
しかしそれからン十年の月日が流れ、少年はなんと、
「茶碗蒸しを食べる為だけに大阪から岐阜へ向かう」程の男に成長しました。
そ、それは成長なのか!?
頭がおかしくなっただけじゃないのか?
その説も否定はできません。
しかし私としては、あんなに後ろ向きだった少年が、これほどまでにアグレッシブで狂気を孕んだ行動を取れるようになったという点を高く評価したいわけです。(あなた誰ですか?)
そのきっかけとなったのは、最近ハマっている「岐阜モーニング」でした。
トースト、珈琲と一緒に茶碗蒸しを食べるという独特過ぎる食文化。
しかしこれが体験してみると想像以上に素晴らしかったことで、茶碗蒸しへの興味が急に湧いてきたのです。
そしてそれを更に後押ししたのが、あるブロガーの方からの情報でした。
「岐阜のフランシスコ・ザビエル」の異名を取る岐阜教の宣教師、「勝手に岐阜県観光大使」さんのブログで紹介されていたのが、
「茶碗蒸しにこだわったモーニングを提供している」という喫茶店でした。
しかし茶碗蒸しの為だけに岐阜まで行くとなると、さすがに世論が黙っていません。
「大阪の茶碗蒸しを食べろ」
「限りある化石燃料を茶碗蒸しの為に使うな」
といったプラカードを掲げ、デモ隊が僕の家の前を占拠するかもしれません。
なので真の目的がバレないように旅のプランを作成しました。
・三ツ星モーニング確約!
・早朝出発!
・途中休憩なし!
・岐阜城散策はたっぷり何時間でも!
・添乗員なし!
これが本日のプラン(大義名分)です。
確かにこれなら立派な観光だ。異を唱える者などいまい。
では、案内通りに早朝に出発!
「おい、そんなに早く行っても岐阜城は開いてないだろう!」
というデモ隊からの罵声を浴びながら、白影号は名神高速道路へと吸い込まれていきました。
そして案内通りに一切の休憩も取らず、美濃の国、本巣市へ到着!
ん!?この看板、少し前のブログで見たぞ、と気づいたあなたは重度の変態です。
そうです、以前「うどん屋モーニング」へ行った時のお昼ご飯として、こちらへ一度訪れていたのです。
その時は下調べが足りず、営業時間が終わった後に到着してしまい、途方に暮れました。
今日はリベンジにやって来ました。
駐車場は車でいっぱいでした。
でも茶碗蒸しの神様が僕を待ってくれていたようで、最後の1台が空いていました。
喫茶F(エフ)
本巣市ののどかな田園風景の中に突然現れるオールディーズ色に溢れた建物。
またやって来たぞ!今度こそ茶碗蒸しを食べる為に!(アホー)
店内に入ると満席だったので、椅子に座って待ちました。
どうせ今日もそんなに待たないだろう、と思っていたらその通りで、すぐに席が空きました。
待っている人の為に席をさっさと空けてくれる、岐阜県民のモーニングマナーの良さにはいつも頭が下がります。
そして席に座った瞬間に目に飛び込んできたのが、
なんと「茶碗蒸しの素」を販売しているようです。
それだけ需要があり、お店側も自信があるのでしょう。
これは期待できるな~!
モーニング発注!
ドッカーン!!
Fモーニング
コーヒー、ポテサラトースト、茶碗蒸し、サラダ、炊き込みご飯、焼きそば、コロッケ、小鉢、デザートのプリン。
品数多っっっ!!
しかもこれ全部で450円。安っ!
何じゃこりゃ~。すげえ!!
何度も言いますが、岐阜でモーニングを食べるとス〇バへはもう行けなくなります。
そしてやはり、このモーニングの主役は茶碗蒸しでした。
他のお店のモーニングに付いている茶碗蒸しよりも大きく、抜群に美味しい。
これだけで十分単品メニューとして出せると思います。
素を買って帰る人の気持ちがよくわかります。
これをもっと食べたい人はなんと、
100円でおかわりが出来ます!なんて偉大なお店なんだ!
しかしまあ、和洋折衷にも程があるカオスなモーニング。
いいな~近所の人。
ごちそうさまでした!
大人気のお店なので、僕らも岐阜の掟に従い、食べたらすぐにお店を出ました。
店内はとても明るく、お店の周辺は素敵な田んぼの風景。
スタッフの方も感じが良い。
めっちゃいいお店でした。大使さん、いつもありがとう!
すっかり満足した僕は帰路へ・・・いや、今日の表向きの目的地へ向かいました。
斎藤道三の居城だったのを織田信長が奪い取り、天下統一へ向けての拠点とした名城。
門の横にある「若き日の信長公の像」は躍動感たっぷりです。
お城へは金華山ロープウェーを使って向かいます。
今日も顔を出さずに我慢しました。よく出来ました。
さあ乗るぞ!
天気が良かったので大阪の通勤電車並みの凄い人でした。
上に着いてからは、徒歩でさらに登って行きます。
すると、
木のトンネルの向こうに現れた美白の城。
かっちょええ~!
天守閣は再建されたもので、大阪城と同じく中が資料館になっています。
上からは濃尾平野の絶景が臨めます。高速道路を通らず、ここから飛んで帰りたい。
帰り際、出口で信長公が僕に命令を下しました。
「美濃へは何度でも訪れよ」
は~い、何度でも来ま~す!
今後の大きな大義名分が出来ました。
これから僕が岐阜を訪れるのは全て信長公の責任です。
それにしてもこの顔・・・昔会社にいた岡本さんにそっくりだ。(誰がわかるねん)
茶碗蒸しのついでに行った岐阜城。
ここが思いのほか良い所だったので、とてもいい観光になりました。
帰り道、高速を飛ばしながら茶碗蒸しの余韻に浸っていました。
そして今日の茶碗蒸しの、ある1点について安堵していました。
銀杏が入ってなくて良かった・・・。
誰が成長したって!?
今やゴルゴンゾーラが加わり、「世界六大嫌いな食べ物」に成長しました。
そ、それは成長とは言わないぞ。
好き嫌い増えとるー!
今日の1曲:Sam&Dave「It's A Wonder」