がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

風の杜に去りぬ

幼い頃から人ごみが嫌いでした。

人間が嫌いなわけではありませんが、人が集まった時のガチャガチャした雰囲気が苦手で、生きた心地がしないのです。

だから大人数の飲み会には行きません。

気心の知れた仲間だけで行う少人数の飲み会は大好きですが、会社の大規模な歓送迎会とかには絶対に行きません。

たとえ上司から出席を強要されたとしても、絶対に行きません。

あれほど人生の貴重な時間を無駄に浪費するものはないと思っています。

 

この社会不適合な人格はいつ形成されたんだろうか?と記憶を辿ってみると、幼稚園や小学校にいた頃には既にその胚芽は芽生えていたようです。

 

学校の教室でガヤガヤと長時間過ごしていると、無性にそのコミュニティから解放されたくなることがあり、そんな時にいつも逃げ込む場所がありました。

 

ジャングルジムです。

 

休み時間、ジャングルジムの頂上へ登り、運動場でサッカーや野球をして楽しんでいる同級生を見下ろしながら、一人で風に吹かれて過ごしていました。

魑魅魍魎がうごめく下界から、一切のしがらみのない天上の世界へ。

今思えば大人が手を伸ばせば届く程度の高さなのですが、当時の僕にとっては、誰の手も及ばない最上の避難場所だったのです。

特に何をするわけでもなく、ただボーッと他の子供たちが遊ぶ姿を上から眺め、みんなの歓声を遠い音声として聴きながら、「解放の時間」と名付けた至福の時間を過ごしていました。

後から同級生に聞いた話ですが、この時の僕に対して、暗黙のルールが制定されていたそうです。

 

「あの状態のがっちには近づくな」

 

そうか。だから誰にも邪魔されなかったのか。お気遣い、ありがとう!

 

ところで「三つ子の魂百まで」という言葉があります。

やはり今でも、僕はジャングルジムに逃亡する癖が残っているのです。

大阪のゴチャゴチャとした喧騒感。

地中から湧いて出てきたかのような人ごみ。

セーラー服を着て昼間から路上で飲酒するおじさん。

街宣車よりも大きな声でトークするおばちゃんたち。

 

もう嫌だ嫌だ嫌だー!

 

「我に解放の時間を与え給え」

 

こんな時、僕は向かいます。

大人のジャングルジムへ。

 

その場所は大阪府箕面市

紅葉の名所として有名な箕面ですが、これには異議があります。

特に有名な箕面の滝周辺。

正直、紅葉で感動したことがありません。

なんかそんなに綺麗だとは思えないのです(怒られるわ箕面の人に)。

でも紅葉の時期は凄い人です。

電車で行けば通勤電車以上の超満員。

車は大渋滞。

僕にはそこへ行く理由が見当たりません。

だから箕面の別の場所へ行きます。

そのオアシスの名は、

 

「風の杜」(かぜのもり)

 

大阪の都心部から車でわずか30分。

たったそれだけで都会の喧騒から逃れることが出来る、大人のジャングルジム。

「なにわ社会不適合者連盟」会長の私、がっちは今日もここへ向かいました。

気持ちのいい風に吹かれ、全てのしがらみから解放される為に。

 

「無料の高速道路」の異名を取る新御堂筋の最北端、白島(はくのしま)の交差点を西へ左折し、突き当りを右へ行くと、大阪とは思えない木々が生い茂る峠道へ入って行きます。

しばらく急カーブの続く坂道を登ると、「風の杜」の看板が突然出現。

看板に従って左折すると、更に急峻な坂道になり、どんどん登って行くと広い駐車場が現れます。

そこに佇む何やら古めかしい建造物。

それこそが「風の杜」

このパルテノン神殿っぽい階段を登り中へ入ると、

ようこそ。大人の隠れ家にして、大人のジャングルジムへ。

風の杜

 

で、ここは何の施設??

 

旅館です。

宿泊すればなかなかのお値段がしますが、僕は泊まるわけではありません。

ここのラウンジ山帰来でランチをする為に来たのです。

そしてこの地こそが、あの時の気持ちを呼び覚ましてくれる大事な場所。

 

大阪平野の絶景を眺めながら風に吹かれる」

 

大人になった今でも「解放の時間」を過ごすことが出来る天上のオアシスなのです。

 

建物に入ってすぐ、早くもその絶景がガラス越しに見えてきます。

全面ガラス張りのロビー。

ここはタダ(無料)で座りたい放題です。

そしてここはランチの時間を待つ場所でもあります。

というのも、「山帰来」は10時から営業開始なのですが、ランチを注文できるのは11時から。

だから早めに来て名前を書いておき、11時になると順番に名前が呼ばれる、というシステムになっているので、しばらくロビーで待つ必要があります。

でもこの待ち時間が全然苦ではありません。

広々としたロビーで絶景を眺めていると、すぐに時間が経ちます。

11時になると次々と選手が入場していき、すぐに満席になりました。

何といっても窓際のカウンター席が一番の特等席ですが、今日もその戦いには敗れ去りました。

でも心配ご無用。

ランチ後に、お楽しみの時間が訪れます。

とりあえず、ササっとランチを済ませましょう。

ランチはこんな感じです。

さすがのVIPな旅館。とても美味しいです。

やみつきになるような味ではないですが、安定の美味しさですね。

さて、ササっとランチを平らげたら、遂に待望の時間がやって来ます。

ここでは食後のコーヒーを、外のテラス席で楽しむことが出来るのです。

 

がっち会長、ジャングルジムに登ります!

 

でも正確には、テラス席へ降りて行くんですけどね。

ううっ、今日は人が多いな。

吾輩のジャングルジムは残っているのか?

あった。良かった。

それでは、都会の喧騒を見下ろしながら、風に吹かれて至福の時間を過ごしましょう。

大阪平野が一望できる、気持ちのいい空間。

これぞ解放の時間。ジャングルジムへ登っていた時の気持ちが鮮やかに蘇りました。

東の方を見ると太陽の塔が見えます。

少しズームしてみましょう。

太陽のおっちゃん、今日も背中のイレズミがセクシーやで。

南へカメラを動かします。

大阪市内のビル群。

真ん中のひときわ背の高いビルはあべのハルカスです。

チャッカマンのようです。

しかしこうして見ると、やっぱり大阪市内はコンクリートジャングルですね。

嫌いやわ~。

西へカメラを動かします。

大阪湾が見えました。

山、都会、海、ここからは大阪を構成する全てのものが見えます。

あ~、都会は嫌いだー。ここから眺めてるだけでええわ~。

コーヒーを飲みながら疲れ切った魂を解放しました。

 

・・・と思っていたら、

 

後ろのおばちゃんの会話が耳に入って来てイマイチ解放できませんでした。

 

このおばちゃん、とにかく太陽の塔が大好きなようで、全ての会話の中心に太陽の塔を持ってこようとします。

僕は太陽のおっちゃんとは親戚関係みたいなもんなので、気になって仕方がありませんでした。

太陽の塔がよう見えるな。」

太陽の塔の向こうに見える建物な、あれはな・・・。」

中央環状線走ってたらな、横向いたら急に太陽の塔が見えてきてな・・・。」

と太陽トークが止まりませんでした。

僕はすっかり聞き入ってしまい、「解放の時間」に浸りきることは出来ませんでした。

とはいえ、爽やかな風に吹かれながら大阪平野の絶景をボーッと眺めたことで、普段の都会生活で疲れ切った心を癒すことは出来ました。

 

さあ、また騒々しい下界へ戻るか、と立ち上がり、おばちゃんの横を通過した時、

 

「やっぱりええなあ、太陽の塔は。」

 

おばちゃん、ほんまに好きなのね。

わかるけど。

そろそろ他の所も見てあげて。

 

こうして本日のジャングルジム時間は終了しました。

箕面の山から見る景色もいいけど、小学校のジャングルジムから見た景色もなかなか良い景色だったなあ、としみじみ思い出していました。

本当にあの時間は、僕にとってはかけがえのない大切な時間でした。

 

そう思うと、またジャングルジムに登ってみたくなりました。

 

「校長先生!大変です!」

「どうしたのかね?」

「ジャングルジムのてっぺんに怪しげな中年男性が登っています!」

 

「撃ち落とせ。」

 

がっち会長、よくわからない容疑で逮捕。

 

今日の1曲:Simon & Garfunkel「I Am A Rock」