年々、お正月らしさを感じなくなっています。
おせちを食べたり、餅を食べたりとお正月っぽく振舞ってみても、何か薄っぺらいような気がします。
以前には毎年感じていたあのお正月感は一体何だったのか?
と考えてみると、そういえば最近は、「親戚の大きな集まり」がありません。
昔は正月に親戚が大勢集まり、昼間からお酒を呑み、わけのわからないテンションで宴が催されていました。
その後ろには誰も観ていないテレビの中で、駅伝ランナーが必死に走っていました。
いろんな世代の人間が大きなテーブルを囲んで好きな事を言い合い、お酒の勢いで謎の喧嘩が始まるのも日常茶飯事。
子供の頃はそれが嫌で、「大人の世話も疲れるわ」といつもぼやいていました。
でも世話は疲れるが、その後に開催されるであろう「お年玉贈呈式」というビッグイベントの為に、グッと我慢して大人たちの醜態を眺めていました。
最近ではコロナ禍ということもあり、集まっても数人の親戚のみ。
なんか寂しいような、気楽なような・・・。
しかしお正月感を醸し出していたのは間違いなくあの集まりでした。
世間ではどうなんでしょうか?
聞いてみると、やはり同居の家族だけでお正月を過ごしている人が多いようです。
しかも今は、特に都会では核家族化が進み、いろんな世代が入り乱れて、という場面はなかなか見れなくなりました。
おじいちゃん、おばあちゃんが居て、その周りに下の世代が集まる。
僕にとってはそれこそがお正月の風景であり、家族との良き思い出なのですが・・・。
そんな事を考えているうちに、昨年の秋、旅先で出会った1軒の素敵なお店の事を思い出しました。
清流と名水の町「郡上八幡」で有名な場所であり、最近では「郡上踊り」が日本各地に残る「風流踊り」の一つとしてユネスコ無形文化遺産に登録されたことで話題になりました。
しかし僕はこの地で、それ以上に意義のある、素晴らしい光景を目の当たりにすることになるのです。
郡上八幡を訪れるのは約20年振り。
とりあえず到着したらどこかでランチを、と思っていたのですが、20年前にどこで食べたのか、記憶にありません。
確か蕎麦屋さんに行ったと思うのですが、店名も場所も、全く覚えていません。
ネットで検索してみると、蕎麦屋さんは確かに何軒かあったのですが、無理に英語の看板を立てていたりと何かインバウンド狙い丸出しのお店があったりして、イマイチ気が進みませんでした。
困った僕は強力な助っ人に協力を願い出ました。
「岐阜で困ったことがあればこの人に聞け」
と岐阜フェチの間では神格化されている毎度おなじみ、「勝手に岐阜県観光大使」さんにLINEで尋ねました。
すると電光石火で返信が来ました。
大使さんから提示されたお店は2つ。
・中華料理のお店
・うどん屋さん
郡上八幡という土地柄、しっくりくるのはうどん屋さんの方ですが、そこを敢えて中華のお店に行くのも面白い、かもしれない。
などと色々考えていると、追伸が来ました。
大使さんいわく、うどん屋さんの方はまだお店が出来てから日が浅く、機材がまだ足りてなくて、ビールケースを椅子にしている箇所もあるので、その辺はご了承ください、との事。
そ、そんなアホな・・・
お客さんをビールケースに座らせるなんて・・・
めっちゃええやんけ。
ビールケース座りたさに、うどん屋さんに決定!
どんな基準やねん。
ついでかい。
久しぶりの郡上八幡は、昔と変わらず風情のある素敵な町でした。
ここであの「郡上踊り」が夜な夜な繰り広げられるのか。
いつか参加してみたいですが、早寝男爵の僕は夜中に踊るのは無理です。
普通に道端の溝に鯉が泳いでいます。
都会なら「どぶ」と呼ばれている所に。
この町の水がいかに綺麗なのかを物語っています。
宗祇水
郡上八幡を象徴する史跡。
環境省が選ぶ「日本名水百選」の第1号に指定されたのがここの湧水らしいです。
郡上八幡の町を歩くと、いたる所に見事な水路があり、名水と共に生きる町というのが実感できます。
歩くだけで心まで浄化されていくようです。
お城も素晴らしい。
と、ええ感じに観光気分が上がってきたところで、
噂のうどん屋さんへ!
絶対そっちがメインだろう貴様。
翔太のうどん
ここ、間違いなく元は薬局ですよね・・・。
味の出まくったお店の外観に期待が高まります。
では、入りましょう。
出た!ビールケースの椅子!
思った以上にむき出しだぞ。
ん!?
テーブルの脚!
最高や。あんた最高やで。
もちろん、ビールケース席に着席しました。
そして予想を裏切る座り心地の良さに驚きました。
もうずっとこのままでいいよ。
メニューを見ましょう。
なんかいいな~このメニュー表も。
どうやらこのお店は、翔太さんという若いイケメン店主の方が、自分のおばあちゃんと二人三脚で切り盛りしているようです。
翔太さんがうどんを。
おばあちゃん(ともこさん)が天ぷらやいなり寿司を。
ええな~。
おばあちゃん、どこに居るんだろう?と厨房の方を見渡すと、おばあちゃんの頭だけがピューッと動いていくのが見えました。
おばあちゃんは小さいので、客席から見ると頭しか見えないのです。
可愛いな~💛
では注文を。
メニューには書いてませんが、「郡上セット」というのがあったので、それを注文。
わあー!美味そう!
孫のうどん、おばあちゃんの天ぷらといなり、このお店の全てが詰まったセットです。
う~ん、いい眺め。つるっつるのうどんに、どう見ても美味しそうなふくよかな天ぷら。最前列には、ばあちゃん自慢のいなり寿司。
うどんはさすがに香川で修行されただけあって、抜群の美味しさ。
讃岐ほどコシが強力ではなく、大阪うどんよりはしっかりしている、絶妙なところを突いています。めっちゃ好みです。
そして驚いたのが、ばあちゃん特製天ぷらのクオリティの高さ。
さくっさくで中はふんわり。見事な衣の纏わせ方です。
めちゃめちゃ美味しい!
いなり寿司も素朴ながら心に染み入る逸品でした。
凄くほっとするお味です。こりゃええわ。
テイクアウトも出来ますよ。100円!安っ!
子供の頃、近所にこんなお店があれば、しょっちゅう買い食いに訪れたでしょう。
学校の帰り道、いなり寿司をほおばりながら歩くがっち少年。うん、違和感はない。
食べている間、厨房からの声がよく聞こえていたのですが、これがとても癒される音声でした。
何度も「ばあちゃん」と優しく声をかける翔太さん。
それに優しく応えるおばあちゃん。
孫の為にと、一生懸命動き回って頑張っているおばあちゃんに対し、翔太さんから感謝の気持ちがにじみ出ているのがとても伝わってきました。
料理の美味しさに、温かい空気感がプラスされ、幸せな気分で食事を楽しむことが出来ました。
こんな気持ちで食事が出来るお店なんて、そうはありません。
阿吽の呼吸なんてもんじゃない、孫とお婆の最強コラボ。
ごちそうさまでした!
いい時間を過ごせました。あなた方こそが郡上の、いや日本の宝です。
大使さん、いつも良いお店をありがとう!
家族が仲良く手を取り合うどころか、家族同士で傷つけあう嫌なニュースばかりが流れてくる現代日本ですが、このお店を見ていると、そんな話は吹き飛んでいきました。
世代を超えた家族がお互いをいたわり、必要とし、仲良く暮らすこんな風景がもっともっと日本中で見られたらいいのにな、と思わずにはいられませんでした。
ただ、親戚付き合いが活発になり過ぎると、一つ問題が浮上します。
「お年玉による経済破綻」
だからしばらく、お正月は家族だけで過ごそう。
渡す立場になった途端、逃げの態勢に入る卑怯者、がっち男爵ここにあり。
今日の1曲:Michael Jackson「Heal The World」