今年もやって来ました冬の風物詩「サロン・デュ・ショコラ」。
いつの間にこんなものが風物詩になったんでしょうか。
あれはちょうど2年前。
会社の後輩であり、スイーツの師匠である「チョコマスターもっくん」の熱すぎる変態話を聞いてから高級チョコレートの世界に興味を持ち、初めて参加した「サロン・デュ・ショコラ」。
間違って紛れ込んだ異物のように会場内で浮きまくり、目が泳ぎながら不審な動きをしていました。
一粒でのり弁当が買えてしまうようなその値段に恐怖を感じながらも、福沢諭吉先生の力を借りて何とか戦利品を持ち帰りました。
そして口に入れた瞬間に広がった新しい世界。
チョコレートってこんなに美味しいものだったのか!と驚愕しました。
昨年も参加。
徐々に会場に馴染んできたぞ、と勘違いしながら、初回よりは格段にスムーズな動きで色々なチョコを買いました。
でも過去2回に買ったチョコレートに対し、自分の中である疑問が湧いてきました。
知らず知らずに見た目が派手なチョコを買ってないか?
映え映え映え映え映え映え映え映えとうるさい今の世の中。
競い合うように「映える」ものを作り、人々もそれを求めるという図式が出来上がっているので仕方がありませんが、どうも何かが違う気がします。
見た目が地味でも本当に美味しいチョコレートを見逃してしまってるんじゃないのか?
そんな事を思った時、僕の脳裏に昔大好きだった、あるプロレスラーの名前が浮かんできました。
「ブラッド・レイガンズ」
誰やねん、それ!!
という声が一斉に聞こえてきました。
小学生の頃、プロレスにハマっていました。
自分は将来プロレスラーになるんだと本気で思っていた時もあり、よく布団にジャーマン・スープレックスをかけたり、椅子の上からフライング・ボディー・アタックを仕掛けては親を激怒させていました。
一番安い立見のチケットで大阪城ホールに忍び込み、明らかに空いていそうな席を物色し、「子供だから見つかっても少し怒られるだけで済むだろう」と堂々と座って観戦していたことも数知れず。
また、「週刊少年ジャンプ」は友達に任せて、自分は「週刊ゴング」というプロレス雑誌を買っていました。
でも毎週買うのは経済的に厳しかったので、良かった試合の時だけ買い、買わない時は近所の本屋さんで長時間立ち読みをしていたのですが、本屋さんのおっちゃんとも仲良しだったので、公認の下でゆっくりと読むことが出来てありがたかったです。
最近はこんな「町の本屋さん」がどんどん無くなってしまい、とても残念に思います。
当時買っていた「週刊ゴング」は、今置いていたら貴重なものになっていたはずなのですが、残念ながら高校生の時に友人にあげてしまいました。
でも1冊だけ、小6の時に買ったゴングの増刊号を今も大事に保存してあります。
’86 プロレスオールスターSUPER CATALOGUE
昭和61年初頭、阪神タイガースが圧倒的な強さで日本シリーズを制した、あの昭和60年の余韻がまだ大阪の街を覆っていた頃に発売され、東大を目指す学生のように熟読しました。教科書をそれぐらい熟読していたら・・・。
この頃のプロレスラーは本当に個性が豊かで、百花繚乱の時代でした。
特に外国人レスラーの個性が強く、この表紙にも写っているミル・マスカラスやブルーザー・ブロディ、ザ・ロード・ウォリアーズなどは大好きでした。
これらのレスラーに共通しているのは、「とにかく派手」だということ。
見た目も、立ち振る舞いも、技も、とにかく目を引く今風に言えば「映える」レスラー達だったのです。
その一方、僕は趣の異なる一人のレスラーに熱い視線を注いでいました。
それがブラッド・レイガンズ。
(’86 プロレスオールスターSUPER CATALOGUEより)
地味!
でも地味なのは見た目だけではありません。
技も地味です。アマレスか、と思わせるグラウンド中心の地味な試合展開。
個性も薄い。故に普通の子供たちからは全く人気がありませんでした。
しかし僕が目をつけたのは、その何とも言えない職人的オーラ。
地味なのに何故かとんでもない凄みを感じるその佇まいに、マニアックな暗黒少年は非常に感銘を受けていたのです。
「予定調和」と言われるプロレスの世界ですが、「本気で闘えばレイガンズには敵わない」と漏らしていたレスラーがたくさんいたそうです。
当時、どんどんショーアップされて行く風潮のあったプロレス界で、派手な技には目を向けず、愚直に自分のレスリングスタイルを追求する職人の姿。
ちなみのこの頃は「ブラッド・レインガンズ」と表記されていました(誰が興味あるねん)。
話がとんでもなく脱線しましたが、今年の「サロン・デュ・ショコラ」では、
「ブラッド・レイガンズのようなチョコレート」を探すことにしました。
映えを狙っていない、見た目は地味だが真摯に味や風味を追求した、本物のチョコレート。
サロン・デュ・ショコラ会場に入る時、浮足立っていた過去2年とは違う、地に足の着いた自分の勇姿に自分で酔いしれていました。(あほー)
今年は毎回楽しみにしていたイートインがなく、「チョコ選びに集中しろ」という空気が流れていました。このストイックな雰囲気。ブラッド・レイガンズ的です(誰も思ってない)。
とりあえず会場内をぐるりと一周し、品定めをしました。
内心「高いなあ・・・」と思いながら。今年は円安で物価が高騰しているので、特に高く感じます。ちょっと財布の中身が心配になってきました。
しかしもうすぐバレンタインであるというのが追い風になりました。
僕は自らの脆弱な経済基盤を守る為に、同行していた妻に対し、バレンタインのチョコとして一つ買ってくれるように要求したのでした。
しかしわずか1カ月後にはそれ以上の値段の物を返さないといけない事を、この時の僕は完全に忘れていたのです。
たくさんあるお店の中で、出来るだけ地味なチョコを探し、目を付けたのはチョコ大国、ベルギーのチョコレート。
他のお店に比べると比較的良心的な価格設定と、実直な職人的オーラを何となく感じとったのです。
デジレー「ショコラ&トリュフ」
今年でちょうど創業120周年を迎えるベルギーの老舗ショコラティエ。
箱がシブい。派手さはなく、じわっとくる味わい深さ。
開けてみましょう。
あれ!?家で見るとちょっと映えてるぞ!
う~ん、これは・・・。
最初は地味だと思ったけど、実は派手なレスラーだった
「スティーブ・ウィリアムス」のようだ。
誰やねん、それ!!(2回目)
(’86 プロレスオールスターSUPER CATALOGUEより)
当時最も勢いのあるプロレスラーでした。
デジレーは残念ながらブラッド・レイガンズではありませんでしたが、チョコの味は奇をてらわず、上質な美味しさ。
第一印象と違う、食べてみると勢いのある感じはまさにスティーブ・ウィリアムス。
でももう一つ、強力な有力候補を購入していました。
一昨年にもっくんの薦めで購入し、その美味しさに感動した、僕をチョコの世界に引きずり込んだ一品。
洋菓子マウンテン「杏と塩」
2007年、京都・福知山の名店が世界大会で優勝した時の作品がこれ。
箱がシブ過ぎる。そして開けると、
中身もシブい。一切の飾りのない見た目。
しかし確実に凄まじいオーラを感じます。
映えない。一切映えない。
切ってみると、
全然映えない。
でもこの滑らかな断面にもオーラを感じます。
そして食べると最高に美味しい。極上のミルクチョコレートに塩がアクセントを加え、ほんのりと杏が香る。
映え率0%。職人率100%。味は最強。
ブラッド・レイガンズ決定!
パチパチパチパチ。
おめでとうございます、水野直己シェフ!
う、嬉しいのだろうかこの称号・・・!?。
そしてこの「杏の塩」を買ったことをチョコマスターもっくんに報告すると、恐るべき食べ方を指南されました。
「まずは2、3分、香りだけを楽しんで下さい。」
君もある意味ブラッド・レイガンズだ。
チョコへの探求心が凄すぎる。
今日の1曲:ブラッド・レイガンズ入場テーマ曲「Sand Storm」