20代前半の頃、取りつかれたように一人でバイクを乗り回していた時期がありました。ちょっとでも交通量の少ない山道を求めてさまよい続け、遂に和歌山県で桃源郷を発見しました。それが橋本市の国道371号線と岩出市の県道63号線を東西に結ぶ全長33Kmの「紀ノ川広域農道」。もう少し南へ下ると国道24号線が平行して走っているのでここは交通量が少なく、周りに果物畑が延々と続くのどかな風景と相まって、一人の世界に没頭できる素晴らしい場所でした。
そして時は20年以上流れ現在・・・。この広域農道からそう遠くない場所に美味しいパン屋さんがあるという噂を耳にしました。農道への懐かしさとパンへの欲望が重なり合い我慢ができなくなった僕は、「屋根を開けることを忘れたオープンカー」白影号に乗り込み、和歌山へ向かいました。もちろん今日もしっかりと屋根を閉じて。
今日こそは、旅行のついでではなく、正真正銘パンの為だけに遠征しましたよ。農道を走るついでに行ったんじゃないかって?・・・あ、あれ見て下さい!あんな所に農産物直売所が!
柿の茶屋
農道に入り、しばらくすると現れるこの直売所。すごく賑わっています。地元の方々の頑張りが伝わってくる素敵なお店です。
妻が大好きな柿を買いました。柿はかつらぎ町の名産品です。妻は大満足です。しかしその光景をがっち君が浮かない表情で見つめていました。彼には人には言えない秘密があったのです。
「実は僕、柿が食べれないんだ。」
がぼーん。でもそれだけではなかったのです。彼は更に深い闇を抱えていました。
「ついでに言うと、僕、牡蠣も食べれないんだ。」
やだー何それー。きも~い。周りがあまりにも美味しそうに食べるので、幾度となくチャレンジしましたが、ことごとく返り討ちに遭いました。
でもそんな事より、お店の前ではためいていたのぼりのキャラクターが気になります。
謎の梨のおじいちゃん。メインの柿のキャラクターもいましたが、僕はこちらが気になりますね~。主役を食ってしまう脇役。嫌いではありません。
直売所を後にし、懐かしの農道を堪能しました。
信号が少なく、適度にアップダウンとカーブを繰り返す本当に走っていて気持ちのいい道です。この日の天気は今一つでしたが、晴れてたらもっと気持ちよかったのにな。
そこら中に柿の木が。
更にしばらく走ると、前方に凄い落差のアップダウンが見えてきました。
屋根をオープンにしていれば完全にジェットコースターですね。でも頑なに屋根は開けません。無理です。恥ずかしいです。
そして農道を最後までは行かずに、近畿大学の手前で左折して目的のパン屋さんへ向かいました。
紀ノ川を渡り、少し南下すると到着!
「メゾン フルリール」
僕の異常なテンションが雲を吹き飛ばしたのか、天気も良くなってきました。こちらのお店は、地元のフルーツや野菜を使ったパンが美味しいと評判です。地産地消に力を入れているようです。素晴らしいですね。特に紀ノ川町の特産品である「あら川の桃」を大量に使ったデニッシュが絶品だと聞いていました。でもこのパンがお店に出るのは8月上旬ぐらいまでだそうです。今は9月。
絶妙な時期外れに来てしまいました。ついこないだやん。8月って。ま、いいか。
中にイートインスペースがあり、11:30からはそこがカフェになりランチをいただけると聞いていたので、予約をしていました。その時に「対面式カウンター」のお席になりますがよろしいですか?と聞かれました。対面式カウンター?何それ??
「嫌です。」とは言えませんでした。まだ11:30まで時間があったので、先に持ち帰り用のパンを購入することにしました。
店内に入ると左側にパン売り場があり、奥にイートインコーナーが見えましたが、こじんまりとした売り場に対して、イートインが広いです。こっちがメインなのか?と疑ってしまいましたが、目の前に並ぶパンの豊かな表情を見ているとそんな事はどうでもよくなりました。いつも通り、本能の赴くままにトレイにどんどん載せました。
買ったパンを白影号に積みに戻り、時間が来るまで車内で待機しましたが、次々と車がやって来ます。人気店なんですね。その中の1台に若いカップルがいたのですが、彼女だけが店内へ行き、パンを買っている間に彼氏が車を方向転換させ、入口付近に停めて待っていました。迎えに来た従順な召使いのように。するとしばらくして店内からおばあちゃんが出てきて、いきなりその車のドアを開けました。
あれ?彼女そんなに高齢だったっけ?玉手箱開けた?
そして僕らの横に停めていた車から、慌てふためいた人々の姿が見えました。
おばあちゃん、車違いです。
確かに少し似ている車でしたが、一片の迷いもなく他人の車のドアを開けるおばあちゃん。驚愕する運転席の召使い(彼氏)。取り乱して何かを叫んでいるおばあちゃんの本当の家族たち。車の窓を閉めていたので何を言っているのかは聞こえなかったのですが、まるでチャップリンの無声映画を見ているようでした。
そんな予想外のエンターテイメントを楽しんでいるうちに時間になりました。期待を膨らませながら再び店内へ。
レストランスペースはすごくお洒落で、落ち着いたシックな色合いの内装に、BGMにはお洒落感を強調するかのようにJAZZが流れています。2人用と4人用のテーブルがメインなのですが、僕らは噂の「対面式カウンター」へ。その正体は、デッドスペースに短いカウンターのような形をしたテーブルが1つあり、そこで向かい合って食事をするというスタイルでした。他の席よりも高くなっており、外の景色がよく見えてなかなか良いお席でしたよ。「嫌です。」とか言わないでよかった!
ランチは前菜、メイン料理、パン食べ放題、珈琲or紅茶、マカロンというコースで1500円です。メイン料理はまず肉かパスタを選びます。僕らは肉を選びました。その中からさらにハンバーグ、ビーフシチュー、牛タンシチューの中から選びます。僕はビーフを、妻は牛タンをチョイス。
まず前菜が運ばれてきました。このサラダ、野菜が見るからに新鮮です。さすが地産地消。運んでる時間もったいないですもんね。シャキシャキしてて美味しいです。
そして食べ放題のパンが運ばれてきたのですが、初回は量が決まっています。その量が結構な量!この初回だけで終わってしまう方が多いのではないでしょうか。誰がおかわりなんてするのだ?!はい、皆さんの予想通り僕です。バゲットをメインに色々な種類のパンがありますが、基本ドライフルーツやチョコ等、甘い系のパンが多いです。もう少し甘くない普通のバゲットが多い方が料理に合うのにな、と思いました。と文句を言いながらしっかりとおかわりをする僕。どないやねん。パン自体はすごく美味しかったですよ。
メインのビーフシチューはパン屋さんのカフェのレベルではなく、超本格的でした。とろけるような肉!高級レストランです。
食後の珈琲にはこの甘いパンが本領発揮。もう1回おかわりしようかと思いましたが、周りを引かせてしまいそうなのでやめておきました。一緒に運ばれてきたマカロンも美味しかったです。
ごちそうさまでした!今度は「あら川の桃」が旬の時期に来たいです。
そこからは一直線に大阪へ帰りました。晩ごはんは、もちろん買って帰ったパンです。朝も食パンを食べたので、この日は3食共パンというクレイジーかつ幸せな1日となりました。
では、大量に買ったパンの中から少しだけご紹介します。
カレーパン
これは少し変わったカレーパンです。一見マドレーヌです。揚げていないカレーパンは他のお店でもたまに見かけますが、こちらはその中でも変わっています。昔ながらのカレーではなく、最近流行りのスパイスカレーのイメージです。ふんわり生地とスパイシーなカレーの相性が良く、美味しいです。マドレーヌで思い出しましたが、子供の頃、近所のSさんがよくマドレーヌを作ってくれました。あのマドレーヌ、また食べたい!
野菜のキッシュ
野菜がたっぷり。僕の舌では何の野菜か判別できませんが何やらたくさん入っているのは確かです。パンはハイカロリーなので罪悪感の伴う食べ物ですが、野菜が入ってるとヘルシーだから大丈夫、と勘違いさせてしまう悪いパンです。美味しいものはほとんどハイカロリーですよ、皆さん。
和栗のデニッシュ
ああ~本当は上に栗ではなく桃がのってるはずだったのだ・・・。しかしこれも絶品でした。デニッシュ生地が美味しくて、カスタードクリームも溢れんばかりに入っていました。この上に桃がのっていたら、そりゃやばいでしょ。「あら川の桃のデニッシュ」、来年は必ず食べるぞ!
ジャバラのクグロフ
和歌山県北山村でしか採れない幻のフルーツ「じゃばら」が上にのってます。このじゃばらの苦みがまわりの砂糖の甘さと絶妙なハーモニーを奏でます。生地の中には他の色々なドライフルーツが入っており、パンというよりはケーキに近いのですが、やはりこのお店はフルーツを使ったパンが抜群に美味しいですね。真ん中の火口から何かが飛び出してきそうです。
フルリールさんに行くのは、農道に寄らなければ大阪から約1時間半、決して近くはないですが、行ってみる価値はありますよ。でも時間がかかっても農道ドライブとセットで行くのをお薦めします。その場合3時間ぐらいになりますが、最高に気持ちのいいドライブができますよ!あくまでも「農道」なのでゆっくり走りましょう。
かつては一人の世界に浸りたくて通っていた農道。今回妻と行きましたが、やはり一人より二人で行く方がいいですね。でも無理やり農道を連れまわされた妻はどう思ったのでしょうか?直売所で買ったあの柿が彼女の機嫌を保持してくれていたのは間違いないでしょう。柿さん、ありがとう!僕は食べれないけれど・・・。
「早く、食べれるようになりたーい」(by妖怪人間ベム)。
今日の1曲:Affection「一人じゃないのに」