がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

荘川そばは豚と仲良し

日本中で排気ガスをまき散らし、散財をし、アリの集団のような人ごみを形成する、地獄のイベントゴールデンウィーク

この狂気の期間が終わるのを、じっと息を殺しながら待っている人物が大阪北部にいました。

飛騨市ファンクラブ会員であり、通称「がっち会長」と呼ばれるその男は、ゴールデンウィークで疲れ切った愚かな日本人たちをあざ笑うかのように、ごそごそと動き始めました。

 

「ふん、やっと遊び疲れて大人しくなったか日本人どもめ。私はこの時を待っていたのだ。」

 

極度の人ごみ嫌いであり、人の裏をかくのが大好きなこの男は、毎年ゴールデンウィークが終わった直後に計画有給を取っていました。

 

「さあ、行くぞ!今なら観光客が減っているはずだ。いざ、飛騨の国へ。

割引の名のもとに!」

 

飛騨市ファンクラブの会員証を振りかざして得られる「割引」という至上の喜びを味わうため、がっち会長はまたしても飛騨の国へと旅立ちました。

 

「さあ、馬を出せ!出陣じゃあ!」

 

そう心の中で叫びながら、ダイハツ産の白馬に乗り、颯爽と名神高速道路~東海北陸道を駆け抜けていきました。

 

と、ここで白馬が奇妙な動きをとりました。

高山インターチェンジまでは行かず、ずっと手前の荘川ICで下へ降りたのです。

 

「連休が明けたとはいえ、高山市の中心部にはそれなりの観光客がいるに違いない。

今回は中心部を避け、マニアな道を通って直接、飛騨市へ入るのがよかろう。」

 

恐るべき策略!このあまりに計算され尽くした動きに対し、支持者の間から感嘆の声が上がりました。

しかしがっち会長の恐ろしさはこれだけにとどまりませんでした。

なんと彼は初めて降り立った荘川の地で、

 

お昼ご飯を食べようとしていたのです。

(ふ、普通じゃないか。)

 

荘川ICで降り、しばらく国道を走行すると、

バス停に思い切りかぶせられた「ようこそ」と誘う押しの強い看板。

見ようによっては飲み屋街の客引きよりも悪質です。

 

白馬で乗りつけ、会長華麗に到着です!

と言いたいところですが、実はこの少し前、「前向き駐車でお願いします」とお店の方にダメ出しをくらっていたのでした。

よくよくお店の方を見ると、確かに「前向き駐車」と書かれていました。

「ごめんなさーい!」

長旅の末にたどり着いたオアシスでいきなり注意を受けるがっち会長。

出だしから暗雲が立ち込めましたが、この後、お店へ入るとその暗雲は吹き飛んでいきました。

 

会長が到着したのは10時30分。開店は11時。

まだ入店するまで30分もありましたが、春の気持ちのいい陽気の下、空気が美味しい飛騨の地にあっては、待ち時間など全く苦になりませんでした。

でも陽射しを浴び続けているとさすがに暑くなってきたので、お店の入り口付近の日陰に入ると、会長の目にある物が映りました。

それはなんと、2組の名前が書かれた紙だったのです。

ええっ!?名前書くシステム??何故さっき言ってくれなかったの?

そしてこの2組は今一体どこへ!?周辺には山しかありません。

謎が謎を呼ぶ展開。

しかしそんな事はどうでもよく思えてくるのが飛騨という土地。

会長はボーッとしながら待ちました。

待つこと30分。遂に入店の時!

 

里山茶屋 むろや

高山市荘川町。ここには荘川そば」という隠れた名物があるそうです。

でもこちらのお店は蕎麦だけではなく、何故か「豚かつ」も名物という変わったお店。

この意表を突く感じががっち会長のハートを掴んだのでしょう。

見落としそうになる木彫りの豚さんがお出迎え。なかなかの味わい深さです。

お店に入ると厨房から「いらっしゃいませ~!」という元気な声。

「名店の予感がするぞ。」挨拶を重視する会長はそう思いました。

お店の雰囲気は最高に良いです。

会長はそばと豚かつを両方楽しめるセットを注文しました。

 

まず、「どぶ汁」が運ばれてきました。

「どぶ汁」とは、この辺りの郷土料理で、挽いた豆を、豆腐にする前にニガリを入れず、沸騰している湯の中で浮かせて煮るという独特の調理方法で作られた汁物。

茨城県福島県漁師料理として知られる「どぶ汁」とは全く異なります。

素朴な味わいながら、やみつきになりそうな逸品です。

 

「どぶ汁の飲み放題をつけて下さい。」

 

会長は叶わぬ注文を心の中で何度も繰り返しました。

しかし今の舞台上は、

まだ主役が不在。

吉本新喜劇で言うところの、その日のメインキャラが出てくる前に脇役キャラたちが場を温める感じ。

真ん中に開けられたスペースに、主役への期待が高まります。

 

そして待望の主役が登場!

まずはツヤツヤの蕎麦が。

更には、

豚カツ降臨!

 

二大スターの揃い踏みに、がっち会長の興奮度はMAXバリューです。

アラン・ドロンジャン・ギャバンを見ているようだ。」(古っ!)

蕎麦も豚カツもハイレベルで、それぞれの専門店が出来てもいいぐらいの美味しさ。

荘川で降りた私の判断は間違っていなかった。間違っていたのは私が最初後ろ向きに駐車してしまった事だけだ。」

会長はまだ注意されたことを気にしているようでした。

「ごちそうさまでした!では向かうぞ、割引の飛騨市へ!」

 

満足気に出発した会長は、国道158号線からマニアックな県道90号線へ入り、一気に飛騨市へ向かいました。

「ただいま!我が心の故郷よ。また割引頼むよ!」

「鯉たちも私の帰郷を喜んでくれているな。」

しかしどう見ても、エサを奪い合っているようにしか見えませんでした。

飛騨古川の町はいつも通りとても静かで、人ごみ嫌いの会長には天上の楽園でした。

 

「では、アレをもらいにアジトへ向かうとするか。」

一見、何の施設かわからないこの建物こそが、飛騨市ファンクラブ秘密のアジト。

ここでまたしても、

がっち会長、割引クーポンを入手しました!

「わーりーびきー!わーりーびきー!」

支持者の間からいつものように割れんばかりの割引コールが沸き起こりました。

「これはまた明日使おう。」

会長はすぐにクーポンを使わず、古川に来たら食べるお気に入りのコロッケを食べ、

食後に出たオナラの勢いに押され、常宿がある奥飛騨へと向かいました。

 

その1時間後、北アルプスに抱かれた奥飛騨の地で、

健気に前向き駐車をするがっち会長の白馬が目撃されました。

 

会長、気にしすぎです。

 

今日の1曲:Sly & The Family Stone「Higher」