がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

ベン・ハーと闇の少年

先週はブログの更新をサボってしまい、すいませんでした。まあ色々とありまして・・・。

2度目のワクチン接種の後、何度も倦怠感に襲われています。そのせいもあってか休日にお出かけをすることが少なくなりました。もう1日中、家で映画を観まくってやろうか、などと考えている時、ふと昔のことを思い出しました。

「そういえば1度、映画館に8時間ぐらい居たことがあったなあ。」

 

何してたの?そんなに長時間!?

 

いえ、別に普通に映画を観ていただけです。それも1本の映画を。

この映画を映画館に立てこもり、ずっと観ていたのです。

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ベン・ハー

1959年 アメリカ作品

アカデミー賞11部門受賞の映画史上に燦然と輝く名作であり、とんでもないスケールで描かれた、上映時間約4時間のスペクタクル超大作です。

 

おっと、これをリアルタイムで観たわけではありませんよ。僕が観たのは1988年。リバイバル上映というやつです。大阪梅田に当時「OS劇場」という映画館がありました。普通の映画館に比べて異様に画面が大きく、凄い迫力で映画を観ることができたのです。

ここで何故か短期間、「ベン・ハー」が上映されていました。

当時僕は中学生。暗黒少年の名をほしいままにしていた頃です。マニアックな映画を探し出し、一人でよく映画館に行っていました。

 

しかし中学生が何故「ベン・ハー」などという古い映画のことを知っていたのか?

 

当時、「スクリーン」という映画雑誌を愛読しており、そこによく昔の名作映画が紹介されていました。そこで「ベン・ハー」のことを知り、そんな凄い映画があるならいつか観てみたいな~と思っていたのです。だから新聞で「ベン・ハー」がリバイバル上映されると知った時は、狂喜乱舞しました。しかし当然ながらこの喜びを共有できる同級生などおらず、いつも通り一人で観に行ったのは言うまでもありません。

ところで余談になりますが、実は「スクリーン」を読む前に、「ロードショー」という雑誌を買ったことがありました。しかしこの「ロードショー」には大きな問題点があったのです。

毎号必ず、途中でエッチな写真が載っていたのです。

これは非常に危険です。当時の我が家には自分の部屋がありませんでした。無駄にバリアフリーと言ってもいいほど部屋がつながっており、親が僕の持ち物をチェックし放題だったのです。こんなものが当時健在だった母の目に留まってしまえば、もう僕の生きる場所は無くなっていたでしょう。そんなリスクマネジメントの観点から、買うのをやめました。そして恐る恐る「スクリーン」を買ってみたところ、こちらは品行方正な雑誌であることがわかり、安心して愛読することになりました。

それでは、ベン・ハーがどういう映画なのか、少しご紹介しましょう。

 

(あらすじ)

イエス・キリストが誕生した年、世はローマ帝国が破竹の勢いで進撃を続け、一大帝国を築き上げていた。だがその陰でユダヤはローマの圧政に苦しんでいた。ユダヤの豪族、ジュダ・ベン・ハーローマ帝国軍の隊長として帰郷した幼馴染みのメッサラと再会する。久々の再会を喜び合う二人だったが、話しているうちに意見が食い違い、今の立場の違いが浮き彫りになってしまう。もう昔の友人関係には戻れなかったのだ。

そして事件が起きる。メッサラの裏切りにより、ベン・ハーはローマに対する反逆罪に問われ、奴隷として軍船に送り込まれてしまい、愛する母と妹と生き別れになってしまう。ここから奴隷としての屈辱にまみれた地獄の日々が始まった。

そして3年後。変わらずガレー船の奴隷としてベン・ハーは生きていたが、ある日、海賊艦隊に遭遇し、激しい戦闘が始まった。沈みゆく船の中で、ベン・ハーはローマ艦隊司令官アリウスの命を救う。

この1件でアリウスからの絶大な信頼を得たベン・ハーはアリウスの養子として迎え入れられる。豪族から奴隷へ、そして今度はローマ屈指の剣闘士として成長を遂げたベン・ハー

そんな折、ローマで開かれる競馬レースに騎手としてメッサラが出場することを耳にする。

全てを奪った仇敵メッサラへの復讐に燃えるベン・ハーは、自身の全てを賭けて命がけの大戦車競走に挑むのであった。

というのが前半の話です。

後半はネタバレするので書かないでおきますね。

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監督はローマの休日でお馴染みの巨匠、ウィリアム・ワイラー

主人公、ジュダ・ベン・ハーに名優チャールトン・ヘストン

宿敵メッサラにティーブン・ボイド(この人、知らん)。

司令官アリウスにジャック・ホーキンス(この人、なんか見たことある)。

前述の通り、この年のアカデミー賞を取りまくりました。

 

さて、この映画を観に行った日、OS劇場の前には長蛇の列が出来ていました。やっぱり大スクリーンでこれを観たいという人がわんさか押し寄せたようです。この大勢の大人たちに混じって、坊主頭のジャージ少年が怪しげに並んでいました。

あれから30年以上経ちましたが、結局この時が人生最高の映画体験となりました。その後もいっぱい映画館に行きましたが、この日の興奮を超えたことは今のところありません。

とにかく凄い迫力でした。特に海賊艦隊との戦いと大戦車競走の場面は、坊主頭に凄まじい勢いで血が上っていくのがわかりました。

この映画、とにかくお金がかかっています。海戦のシーンや闘技場の大観衆など、今ならCGを駆使して作るのでしょうが、この時代にそんなものはありません。全てを本物の人間とセットで撮られています。だから映像に奥行きがあり、リアリティが凄いのです。

ところでこの映画を観に行く前、4時間という長い上映時間を心配していました。

トイレを我慢できるのか?

そう思い、前日から水分を控え、コンディションを整えていました。

しかしなんと、途中にちゃんと休憩時間が用意されていたのです。それも間奏曲つきで。大げさな交響曲が流れている中、いそいそと皆さんがトイレへ向かう光景はなかなか面白かったです。僕も行きましたけどね。その時の僕はすっかりローマの剣闘士になった気分で、威厳に満ち溢れた態度で行進していました。行先はトイレですけどね。

そして後半。この映画のハイライトである大戦車競走の話から幕を開け、その後重厚な人間ドラマへと移っていくのですが、実に見ごたえのある作品でした。

結局この映画はキリストを賛美している映画なのですが、そういった宗教的な側面を抜きにしても素晴らしい作品であることは間違いありません。

上映終了後に押し寄せた深い余韻のせいで、暗黒少年は席から立ちあがれませんでした。

そしてそうこうしているうちに、次の回の上映が始まってしまったのです。

今の時代では考えられないことですが、当時の映画館は入れ替え制ではなかったのです。指定席もごくわずかなエリアだけで、ほとんどが自由席でした。その為、上映時間が終わりに近づくと次の回の人々が席を取るために、わらわらと中へ入って来る光景がよく見られました。

つまり、朝から晩までずっと映画館に立てこもることが可能だったのです。

次の回が始まってしまった時、闇の少年がっちは意外と冷静でした。

もう1回観てやろう。

おーい、上映時間わかってるのかー!?

勿論わかっていましたが、もう1度あの迫力を体験したくてたまらなかったのです。

結局2度目の休憩時間をはさみ、普通に2回観てしまいました。計8時間の目くるめく映像体験でした。

 

 

帰宅して、母に怒られました。

一体、何をしてたんじゃー!このガキャー!!

1本の映画をずっと観ていたと何度説明しても信じてもらえませんでした。そりゃそうでしょう。

この後しばらく何日も、ベン・ハーの余韻に浸っていました。

そしてこの映画の音楽も気に入った闇の少年はレコード屋へ走り、サントラ盤まで買ってしまいました。

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勇壮な中にも哀愁のある、この映画を凝縮したようなメインテーマ曲を聴きまくりました。今思えば、後にハマることになるヘヴィメタルの世界観にも通じるところがあるような気がします。

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そしてその光景を、母が最大の警戒心を持って見ていました。

普段ビートルズばかり聴いていた問題児が、今度は急に交響曲を聴きだしたのですから、無理もありません。

 

私の息子は大丈夫なのか?どんな大人になってしまうんだろう?

 

あれから早や30年。こんな大人になってしまいました、母上。

このブログを天国から閲覧してくれているのでしょうか?

もし観ていたら、母はこう思っているでしょう。

 

あんた、全然成長してないなあ。

 

はい、おっしゃる通りです、母上。そしてこれからも成長することはないでしょう。

 

今日の1曲:ローマ交響楽団ベン・ハー序曲」