がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

旅立つ友と、開かずの屋根

子供の頃からずっと思っていることがあります。

日本人にオープンカーは似合わない。

これはもう、絶対です。唯一似合うのが若き日の石原裕次郎さんです。彼以外は誰も似合いません。

小学生の頃、オープンカーに乗っている大人たちを見るたびに思っていました。

「ふん、金持ちのアホボンがいちびりやがって」と子供とは思えないほどの毒を吐きまくっていました。

洋画でスマートにオープンカーを乗りこなす欧米人の姿を幼い頃から見ていたために、日本人が乗っているのを見ると滑稽でたまらなかったのです。違和感しか感じません。

 

そして大人になった僕の愛車がこちらです。

f:id:gatthi:20211102205231j:plainダイハツ コペン

 

こ、これオープンカーでは・・・?

 

その通りです。ボタン一つで屋根が開きます。軽自動車なのに。

しかし私は誓います。

今まで一度もオープンにして走ったことはない!と。

ここで皆さんは疑問に感じるでしょう。

何故この車を買ったんだ、と。

ただただこの車の愛くるしい見た目に魅了され、購入してしまったのです。

視線が低いので、まるでゴーカートで公道を走行している気分が味わえ、とても楽しい車です。

購入してから5年間、駐車場で屋根を開けて遊んでいた以外は、1度もオープンにしていません。

しかしこの歪んだ僕の持論を真っ向から否定する人物が現れました。

前回のブログの主役、親友のちーちゃんです。

 

 

ずっと知らなかったのですが、ちーちゃんはこのコペンが一番好きな車なのだそうです。

そしてちーちゃんの移住前の食事会に、彼のリクエストでコペン「白影号」で向かうことになりました。

僕はこの時、ちょっと嫌な予感がしていました。

「屋根を開けてくれなどと言わないだろうか?」

でもそんな心配をよそに、往路は屋根を閉めたまま到着しました。

感慨深い食事会が終わり、駐車場へ戻って来ました。

と、その時!

 

「屋根、開けよか。」

 

ちーちゃんの口から恐れていた一言が飛び出しました。

ま、まあ駐車場で屋根を開けるだけなら問題はない。

開けてみました。

f:id:gatthi:20211103104909j:plain

f:id:gatthi:20211103104940j:plainちーちゃん「ほな、行こか。」
「ええっ!?このまま走るの?」

ちーちゃん「そらそうやろ。これはそういう車やで。」

ううっ、その通りだ・・・・・。腹をくくりました。

 

突然訪れたオープンカーデビューの日。

 

ひえ~恥ずかしい~!

 

ところがいざ道路へ繰り出してみると、

 

気持ちええ~。

 

あれ!?なんか思っていたのと違うぞ。恥じらいもあまり感じません。

少し寒かったのでシートヒーターと暖房をつけると露天風呂に入っているような気分になり、とても快適です。

するとちーちゃんが、自分のスマホで音楽をかけ始めました。しかもジャズです。

これが妙に心地よく、この音楽が更に非日常な世界へと連れて行ってくれました。

やっぱり音楽の力って凄いですね。

車は池田の市街地を抜け、山沿いの道から箕面の高級住宅街に差し掛かりました。

こういう場所では、オープンカーで走っていても違和感がないような気がしてきます。

すれ違う車も急に高級車が増えてきました。

ここでちーちゃんが、音楽のジャンルを変えてきました。

クラシックギターの美しくも切ない調べが鳴り始めました。

「おっ、ラテン系か!ちーちゃん、こういうのも聴くのか。シブいな~。」

と思った直後、

怪しげな歌声が聴こえてきました。

 

「ボインは、赤ちゃんが吸う為にあるんやで~♫」

 

うわあああーっっ!こ、これはもしかして!

 

「お父ちゃんのもんと、ちがうんのやで~♩」

 

ひえ~!やっぱり!

月亭可朝師匠の名曲(?)嘆きのボインじゃないか!

僕は忘れていたのです。ちーちゃんが一筋縄ではいかない男だということを。

素直にジャズの後にラテンミュージックなどかけるはずがなかったのです。

しかし前述の通り、今走行しているのはセレブたちが優雅に暮らす、箕面の高級住宅街です。

言い換えれば、大阪の中で最もこの曲が似合わない街でもあります。

 

屋根全開やで、ちーちゃん!丸聞こえや~。

 

早く通り抜けようと、思わずスピードが上がりました。

しかし、無情にも前の信号が赤に・・・・・。

ピタッ。

 

「なんで女の子だけ、ボインになるのんけ~♫」

 

閑静な高級住宅街に、うさん臭い歌声が響き渡りました。

 

逮捕や!何の罪かはわからんが、とにかく逮捕やー!

 

さすがちーちゃん。そうだ。そういえば君はそういう男だった。

このハード&ヘヴィな展開によって、僕のオープンカーデビューはより印象的なものとなりました。

この後、ちーちゃんに運転を代わってもらったのですが、子供のように無邪気に嬉々として白影号を操る彼の姿を見て、なんだか幸せな気分になれました。

またいつの日か、ちーちゃんとオープンドライブに出かけたいな~。

 

この日を境に、僕のオープンカーに対するイメージは150度ぐらいは変わりました。

似合わなくてもいいじゃないか。本人が楽しければ。そう思うようになりました。

そして子供の頃の自分に教えてあげたいです。

 

少年よ、君は35年後オープンカーに乗っている。

しかも学校の教室で後ろの席に座っているちーちゃんと。

f:id:gatthi:20211104204354j:plainだからもうあんまり毒を吐くんじゃないぞ!

親友って、本当にありがたいですね。

 

今日の1曲:かまやつひろし「我が良き友よ」