2023年の夏、大阪北部のとあるスラム街で、不穏な計画が持ち上がっていました。
それは早朝に大阪を出発して岐阜へ向かい、ひたすらモーニングをハシゴして、その日のうちに大阪へ帰って来るという、狂気の計画。
首謀者は考古学者ガッチー・ジョーンズ。
中古レコードの発掘調査で名高い名士ですが、彼には裏の顔がありました。
「無類の岐阜好き」だったのです。
有給休暇のほとんどを飛騨地方への旅行に費やし、日帰り旅行では大阪から近い美濃地方を攻めたりと、岐阜への溺愛ぶりはとどまることを知りませんでした。
そして今回の壮大な野望の道連れとして彼が白羽の矢を立てたのは、
レコード発掘調査の相棒であるポール・ウェダー卿。
夏に決行される予定だったこの計画ですが、天気に恵まれず、延期を繰り返し、気づけば秋になっていました。
しかし涼しい秋になったことで、彼らの考古学者魂に火が着きました。
「ついでに岐阜でレコード発掘調査をしよう」
ことのほか体力のいる発掘調査。特にレコードを持ち上げては下ろすという繰り返しの作業は、強靭な指の力と忍耐力が求められます。
今年の夏は暑すぎて、発掘調査を行うことが難しかったのです。
ただただモーニングを食べに行くという私利私欲の為だけではなく、世界遺産級の中古レコードを人類の為に発掘しようという彼らの崇高な意志に対して、世間から称賛の声が湧き上がりました（上がるかあっっ！）。
計画決行の日が決まり、日に日にジョーンズの興奮は高まっていきましたが、肝心のお店の選定に悩んでいました。
岐阜県南部「美濃の国」は紛うことなき日本一のモーニング処。
モーニングは発祥こそ愛知県一宮市だと言われていますが、それを発展させたのは岐阜県の美濃地方。
モーニングのバラエティの豊富さ、濃い内容、お店の多さ、値段の安さ、どれを取っても他の追随を許しません。
そんな星の数ほどのモーニング処の中から、１日で周るお店を選ぶという作業は困難を極めました。
飛騨高山在住の「モーニング大帝」と呼ばれる伝説の男が作成した、
「岐阜モーニングMAP」
を見ながら、行きたいお店が多過ぎて、ジョーンズは途方に暮れていました。
しかし決行日が近づいてきたことで、ジョーンズは腹をくくりました。
「直感に任せよう。」
以前に大帝のブログを閲覧していた時に心を奪われたお店に、素直に向かうことにしたのです。
そして迎えた決行の日。
朝４時に起床し、愛車「白影号」を駆ってウェダー卿を迎えに行き、前日に発売になったローリング・ストーンズの新譜を大音量で鳴らしながら美濃の国へと向かいました。
１軒目に向かったのは、大帝いわく「このお店に行かずして岐阜モーニングは語れない」という程の名店。
ジョーンズは過去に何度も岐阜モーニングを体験しているものの、未だにこのお店へ行っていないことに引け目を感じていました。
「ここへ行かない限り、私はいつまでたってもモグリだ。」
遂に今日、モグリを脱却する時がやって来たのです。
開店時間は朝８時。
ジョーンズは藤井聡太八冠も真っ青の先を読む力を発揮し、７時55分に到着しました。
「もう誰にも私のことをモグリとは呼ばせない！」
花水木（はなみずき）
強力なモーニング処が群雄割拠する激戦区です。
その中にあっても地元民の間でカリスマ的な人気を誇る名店だと聞いて、ジョーンズはここへ行きたくて行きたくてたまらなかったのです。
このお店に岐阜モーニングの全てが凝縮されているというもっぱらの噂でした。
しかしもう開店５分前だというのに車が１台しか停まっていません。
チャーンス！
「入口付近で待ってやろう。」
２人は入り口へと近づきました。
「むむっ！？」
はうあっっ！！
まさかの臨時休業。１か月も。
あまりの非情な展開にフリーズするジョーンズとウェダー卿。
「じゃ、２軒目に行きましょうか。」
切り替え早っっ！
彼らのモーニング魂はこれぐらいの事態では微動だにしませんでした。
しかし、これだけは言えます。
ジョーンズ、モグリ延長。
ジョーンズはモグリの称号を抱えたまま、次のお店へと向かいました。
２軒目に決めていたのは、羽島市から少し東へ走った岐阜県の中心部、岐阜市。
ここに最近、岐阜県民のハートを鷲づかみにしているカフェがあるらしいのです。
羽島市から岐阜市へと向かう途中にも、クルクルが元気よく回っている、気になる喫茶店が何軒もあり、岐阜の発達したモーニング文化を実感する２人でした。
のどかな岐阜らしい風景の中を優雅に走り、２軒目に到着しました。
２軒目は最近、東海エリアで話題沸騰中だという噂のお店。
恵時尊（えじそん）なんじゅ店
このお店で、２人は異次元の体験をすることになりました。
とても大きなカフェです。
駐車場も広く、カフェというよりはファミレスみたいです。
この大きな車が駐車スペースを減らしている、などと言うのは野暮でしょう。
道を挟んで第２駐車場もありました。
そんな中でクルクルだけは忘れない。これが岐阜スピリット。
花水木で肩透かしをくらったことで、２人はかなりお腹が減っており、飢えた狼のような顔で入店しました。
中もファミレスなみに広く、席もゆったりしています。
注文はタッチパネル式。
そして食事を運んでくれるのは、なんとロボット。
ここは本来、２軒目に来るはずだったので、ドリンク代のみのモーニングを軽く食べる予定でした。
しかしここが１軒目になってしまったことで、予定変更。
２人共、ドリンク代にプラス150円の「リッチモーニング」を選択しました。
しばらくしてロボットがやって来ました。
まずはドリンクを。
続いてリッチモーニングが（何か巨大な物が見えるぞ）。
配膳を終えたロボットは心なしか満足そうに見えました。
ロボットには１台ずつ、名前がつけられています。
「ありがとう、めぐみちゃん。」
ジョーンズは心から感謝の意を伝えました。
さあ、やっとありつけた本日最初のモーニングです。
「いただきます！」
モアイ像！？
あまりのパンのデカさに２人は驚愕しました。
「こ、これは・・・。一斤丸ごとじゃあないのか！？」
リッチモーニング
高くそびえる食パンを中心に、サラダ、スクランブルエッグ、バナナ、オレンジ。
そしてパンにつけるメープルシロップとホイップクリームが添えられています。
かなりのボリュームです。
ところが食べてみると、パンがふわっふわでとても食べやすく、どんどん食べ進んでいきました。
食パンの中にはしっかりとバター（マーガリン？）が塗ってあります。
お腹が減っていたこともあり、２人共凄いスピードで食べ終えました。
ごちそうさまでした！
破壊力抜群のリッチモーニング。
ドリンク代にプラスわずか150円だとは思えない内容でした。
さすが美濃モーニング。
しかし！これだけでは終わりません。
ここからが恵時尊の真骨頂なのです。
タッチパネルを操作せずにいると、順番に色々な情報が画面に流れるのですが、
その中で意味不明なものがありました。
お土産？？？
なんと、飲食した人全員に、好きなお土産を１つ持って帰れる権利があるというのです。
これこそが最近、恵時尊が話題になっている要因です。
しかしにわかには信じられないジョーンズとウェダー卿。
２人はしばらく他のお客さんを観察しましたが、皆さん普通に持って帰っていました。
「噂は本当だったようですぜ、ウェダー卿。」
ジョーンズの眼がぎらつき始めました。お土産の中に、彼の大好きな「パン」があったからです。
機械で精算を済ませた後、この中から好きなものを持って帰ります。
２つ持って帰ろうとする不届き者には天罰が下ります。
ジョーンズが選んだのはもちろん、
食パン。しかも２斤分。
おかしい。何かがおかしい。
まあまあ安いお値段でたらふく飲食したというのに、
何故まだこんな素敵な物がもらえるというのだ！
パンの値段が高騰しているこのご時世で、しかもいい加減なパンではなく、モーニングで出て来たのと同じふわっふわの美味しいパンです。
「この後、変な宗教に勧誘されたりしないだろうか？」
ジョーンズの心配をよそに、何事もなくお店の外に出ました。
おっさん２人、手に食パンを抱えながら。
「じゃ、次のお店へ行きましょうか。」
考えていてもこの謎は解けないと悟った２人は、さっさと次のモーニング処に向かいました。
もう次行くの！？
彼らの朝は、まだ始まったばかりなのだ。
しかし無理はするなよ、もう若くはないのだから。
（つづく）
今日の１曲：The Beatles「Magical Mystery Tour」
