「お酒が飲める人っていいなあ。」
と思うことがあります。
全く飲めないというわけではないのですが、「準下戸」といってもいいぐらいの弱さを誇っています。
美味しく飲めるのは1杯目のみ。
2杯目で睡魔に襲われ、3杯目で記憶を失う、というわかりやすい3部構成になっています。
要するに、ほとんど飲めません。
自分がお酒の弱い人間だと気づいたのは、若干12歳の時でした。
その事件は、当時よく遊んでいた同級生、玩具屋さんの御曹司「ピッカン」の家で起こりました。
ピッカンの店舗兼住宅は、昭和臭が充満する、昔ながらのアーケード型商店街の中にあったのですが、ここは閉店したお店が多い、いわゆる「シャッター商店街」だったのです。
閑散とした通りに、業務用ゲーム機が何台か置いてあり、子供たちがたむろしていました。
当時人気のあった「イー・アル・カンフー」というゲームの音が常に商店街中に鳴り響いているという、独特の空気感のある商店街でした。
ピッカンの家には、当時大人気だった「ファミコン」ではない、他では見たことのない謎のポータブルゲームがありました。
ピッカンの家でしかプレイ出来ないという希少性を求め、僕はよく遊びに行っていたのです。
その日もいつもと同じく、家の中に居ても聞こえて来る「イー・アル・カンフー」のサウンドを聴きながら、謎のゲーム機で遊んでいました。
しばらく経った頃、ピッカンが「ジュース取って来るわ」と言って冷蔵庫からジュースを何本か持って来てくれました。
僕は大好きだった(今も好きな)アップルジュースを選びました。
喉が渇いていたこともあり、凄い勢いで飲み始めました。
「うおーっ!このアップルジュース、めちゃめちゃ炭酸効いてるな~!」
と叫びながら、ご機嫌でジュースを飲んでいました。
しかし直後、僕の体に異変が起こりました。
目が回り出し、体中が熱くなってきました。
その後だんだん、起きていられなくなってきました。
「ピッカン、このジュース、なんかヤバいんちゃう?」
「でもアップルチューハイって書いてるだけやで。」
「チューハイって何??」
「知らん。」
お酒じゃ!!クソガキども!!
と今となっては言えますが、その時はチューハイなどという言葉は知らなかったのです。
それからピッカンが、小学生でもわかる表記を見つけました。
「がっち、よく見たら『これはお酒です』て書いてるわ。ごめん。」
もうほとんど飲んでもうたで!!
それからしばらくして、スイミングスクールの時間が近づいてきたので、千鳥足でピッカン家を後にしました。
商店街を出る時、「イー・アル・カンフー」の音がサイケデリック・サウンドのように頭に響いていました。
「大人どもめ。いつもこんなもん飲んどるんか。アホちゃうか。」
と悪態をつきながら、何とか無事に帰宅しました。
その後、ほろ酔い加減でスイミングスクールへ行き、泳いでいるうちに、アルコールも抜けていきました(危ないなあ)。
この時、僕は気づいてしまったのです。
「たぶん俺、お酒弱いな」と。
あれからン十年の時が流れ、大人になった今は1杯だけ飲めるまでに成長しました。
飲み会でありがちな最初の一言、
「とりあえず生中で。」
というセリフは僕には存在しません。
「最初で最後の、生中で。」
1杯の重みが違う。その最初の生中が全てなのです。
そんなわけで、居酒屋やバルなどには普段は縁がありません。
もしそっち方向で美味しそうなお店を見つけたとしても、飲まないとカッコつかんやろうしな~と気後れしてしまい、入ることが出来ませんでした。
でもここ数年、鬱陶しいぐらいに周囲の人々が「あそこは美味しいよ」と口々に言っているお店がありました。
ただ、そのお店は「バル」なので、今まで見て見ぬふりをしていたのですが、
大阪に住んでいる以上、一度は行っておかないといじめられそうなので、意を決して突撃することにしました。
お店があるのは梅田。
さあ、飲みに行くぞ!(大丈夫かー?)
そのお店は、「フレンチおでん」という奇妙な名物を武器に、梅田で4店舗を展開しブイブイいわしている、大人気店です。
赤白(こうはく)阪急三番街店
開店前から大行列ができる、今や大阪を代表するお店になりつつあるフレンチ・バル。
しかしただのフレンチではなく、日・仏合作映画のような、フレンチに和食のエッセンスを取り入れた独特の料理が食べれると話題になっています。
今まで敬遠していましたが、遂に勇気を出してやって来ました。
並びました。1時間も。
入口のベルが鳴ったら「入っていいよ」という合図です。
カウンターがずらっと並んだ店内。
皆さん、ワインをガンガンに飲んでいます。お昼なのに。
注文は今風にタッチパネルです。
それではガッチ14世、華麗なるフレンチの宴の幕開けです!
まずはワインで乾杯を。
タッチパネルで「赤」を注文。
慣れた手つきでグラスをくるくると回しながら赤ワインを口に運んだ・・・ように周囲の目には映っていたことでしょう。
しかしガッチ14世の行動には、人には言えない秘密が隠されていました。
いちびってくるくる回して飲んでいたのは、赤は赤でも、
赤ぶどうジュースだったのです。
この後、酔っぱらって梅田の街を徘徊することを極度に恐れたガッチ14世は、
あたかもワインを飲んでいるかのように装いながら、ソフトドリンクを飲んでいたのでした。
よく見ればワインに入っているはずもない氷が入っていますが、そんな事には全く気付いていないようでした。
さあ華麗なる乾杯の後は、食べるぞー!
高橋名人も真っ青の速度でタッチパネルを連打し、次々と注文しました。
まずは赤白へ来た人は100%注文するという、看板商品である「フレンチおでん」!
大根ポルチーニ
これが噂のフレンチおでん。
ふむふむ、ポルチーニ茸のクリームソースが抜群に美味しいです。
そして大根はよく煮込んであり柔らかい、確かにおでんです。
めちゃめちゃよく合っています。
日・仏、いぶし銀同士の競演。
ジャン・ギャバンと志村喬が競演したような味がしました(誰がわかるねん、これ)。
200円というお値段も魅力的な逸品です。
コンニャク 赤味噌ボロネーゼ
うーん、これも美味い!
こんにゃくがフレンチになるなんて、そんなアホな。
ワインに合うわ~(え??)。
セロリとレーズンのマスタードマリネ
ああっ!サラダに果物入れるのは駄目!
なんぼお洒落でも無理!これは嫌い。
何で注文したんやろこれ???
普通のバゲット。以上。
キノコのリゾット トリュフの泡仕立て
これは・・・美味しいんだけど新し過ぎて頭がついていきませんでした。
でも、これもワインに合うな~(あなた今何を飲んでるの?)。
牛ランプ クリーミーレフォールソース
名前ややこしいなあ。何やねんレフォールて。
これは特に和の要素が見当たりません。ただ肉を食べたくて注文しました。
そして何よりワインに合うから(もういいよ、そういうことで)。
〆の一品は、大阪らしく「お好み焼き」で。
キャラメルラテ??いや、それ以上にお好み焼きのサイズを想像していたので、
あまりにも小さくてビックリ。
家庭用のガス警報器ぐらいの大きさです。
これのどこがお好み焼きやねん!と食べてみてまたビックリ。
お好み焼きやん。
アート作品のような見た目からは想像できませんが、確実にお好み焼きです。
これも見事な日・仏合作!
見た目の華やかさから鑑みて、アラン・ドロンと三船敏郎の競演みたいな感じでしょうか(さっきよりはわかりやすい)。
これもチーズがお好み焼きの生地に合っていて、とても美味しかったです。
2杯目の赤ワインが進みました(氷が入ってるぞー)。
セ テ トレ ボン!
ごちそうさまでした!
噂通りの美味しさでした。
ただの「映え狙い」の料理であれば、思い切り悪態をついてやろうと思っていたガッチ14世でしたが、完全に返り討ちに遭いました。
「今夜も、いいお酒だったよ。」
ワイングラスに残った、溶けた氷を一気に飲み干し、ガッチ14世は外へ出ました。
「さあ、パリの街へ繰り出そうじゃないか。」
そうつぶやき、彼はヨドバシカメラ梅田店へと消えていきました。
今日の1曲:Michel Polnareff「シェリーに口づけ」