僕の体は長年の肉体労働でボロボロです。日常的に怪我も絶えません。そのスクラップ寸前のボディーを修理してもらう為、整骨院へドックインしています。家から徒歩5分圏内に何件もの整骨院が乱立していますが、僕が通うのは自転車で1時間弱の所にある、とある整骨院。
何故わざわざそんなに遠方まで通うのか?そこに「神の手」が存在するからです。ここへ行けば、嘘のように体が軽くなります。しかしそれだけが理由ではありません。
「長柄のゴッドハンド」S先生。ぼくは彼に対して、自分と同じ「少数派民族」の匂いを色濃く感じるのです。その根拠は言葉ではうまく説明できないので、とりあえず先生の愛車を見ていただきましょう。
これ、ホンダのスーパーカブですよ。ほとんど原型がありません。
唯一、カウルにカブの面影が残っている。と強く言い聞かせるとそんな気もしますね。
エンジンをかけると、映画「マッドマックス」に出て来る悪そうなバイクのような音がとどろきます。絶対にスーパーカブの音ではありません。
イスをパカッと開けると、
なんか凄いぞ。
フレームを切って中にスピーカーが仕込んであります。
もはやウインカーなのかライトなのかもわかりません。
本来バイクにはついていないはずの物が色々とついてます。
この変態カブ、先日奈良で開催されたイベントにおいて、見事カスタム部門のグランプリを受賞したそうです。おめでとうございます!この日もこの後、バイク雑誌の取材を受ける予定だそうです。しかしもう一度言っておきますが、このバイクのオーナーは整骨院の先生です。
こんなバイクを乗り回しながらも、「神の手」で患者を救う男。それが○○○整骨院のS先生。(先生から、名前は伏せておいて下さいと言われています)
バイクの椅子の裏にも貼ってあったこのステッカー。100ドル札に先生の似顔絵が印刷されていますが、めっちゃ似てるんですよ、これ。
僕が1時間かけて通う理由が何となくわかっていただけたでしょうか。普段の遊び心溢れる言動とは裏腹の、仕事に対する真摯な姿勢。このギャップに惹かれるんです。そしてこの方、間違いなく少数派民族です。しかしまだこのバイクはS先生ワールドのほんの一端に過ぎません。まだまだディープな世界をお持ちなのですが、それはまた別の機会に。
さて、自転車でいい汗をかき、ボディーを修理してもらった後、そのまま自転車で帰るだけではもったいないです。整骨院の近くに、「昭和臭強めの美味しい洋食屋さん」があり、ここのコロッケが絶品なんですよ。
「グリルSano惣」
大阪市北区長柄西。日本一の長さを誇る天神橋筋商店街から北に10分程歩いた住宅街の中にあります。精肉店が経営する洋食屋さんです。お店の外観からは昭和の匂いしかしません。まるで平成という時代が無かったかのようです。
お店へ入ると、カウンターにぐるりと囲まれたオープンキッチンの光景が広がります。しかしただのオープンキッチンではありません。オープン過ぎるキッチンなんです。
調理風景の全貌が見渡せるのはもちろん、予備の皿の位置や調味料の場所まで丸見えです。僕がいつも座る席の目の前にはカレーが大量に入った巨大な寸胴が置いてあり、待っている間ずっとそれを見つめながら食欲を高めています。
ではメニューを見てみましょう。
さすが昭和のお店。税込みのわかりやすいお値段。1円玉、5円玉を使うことはありません。いつも僕が注文するのは、牛カツライスにコロッケをトッピング。その日の空腹具合に合わせて、コロッケの数を調整します。
牛カツライスは、食べやすい薄切りの牛カツにビターな味付けのデミグラスソース、キャベツのサラダ、洋食感を一気に高める具なしのスパゲッティーが少し、白ご飯、これらがワンプレートにのっています。そしてこのお皿こそが、このお店の昭和臭を強めている大きな要因になっています。僕ら世代では学校の給食でおなじみの銀色のアルミ皿。お水も銀色コップに入っています。懐かしい~。ボリューム的にはこれだけでも十分ですが、そこへとどめを刺すのがほとんどの人がトッピングする名物コロッケ。
お肉屋さんのコロッケというだけで、もう間違いなく美味しいだろうという根拠のない信頼感がありますが、こちらもその信頼を裏切りません。結構厚みのあるボリューミーなコロッケです。味付けは少し濃いめで、何もつけなくても十分美味しいですが、トッピングにすると牛カツと同じくビターなデミグラスがかけてあり、この相性がまた良くて、サイモン&ガーファンクル並みのハーモニーを奏でます。
ではここで、常連ぽく見える注文方法を伝授しましょう。
例えば「牛カツライスにコロッケを1つトッピングで」と注文する場合、
「ワンコロカツ」これでOKです。
こちらでは「カツ」といえば強制的に牛カツになるので、豚カツの場合は「豚カツ」とはっきり自己主張しましょう。ここで1つ注意点。コロッケを2つトッピングする場合、「ツーコロカツ」、と言ってはいけません。コロッケの数を英語で表現するのは1つ目だけ。2つ目以降は「ニコロ、サンコロ、ヨンコロ、」となります。これを間違えるとニセ常連だとばれてしまい、カウンターに並ぶ陪審員たちの冷たい視線を浴びることになります。また、「わ、ワン・・コロ、カツ」と緊張しながら言うのもNGです。「ワンコロカツ」と目力を強めながら堂々と言いましょう。これであなたもいきなり常連の仲間入りです。
ところで先程「オープン過ぎるキッチン」と言いましたが、「過ぎる」ゆえのダークサイドな一面もあることをお伝えしておきます。こちらのお店は基本、厨房を支配するお母さんと、コロッケを初めとする揚げ物マスターのおばあちゃんで切り盛りされています。忙しい時間になると助っ人さんが登場しますが、僕は開店すぐに行くのでいつもこのお二人で全てを回しています。たまにおばあちゃんがお母さんからの指令をうまくキャッチできず、それに対してお母さんがいらついて声を荒げてしまう場面に出くわしてしまう時があります。そんな時はテレビの方へ視線を送り、何も聞こえていないフリをしましょう。まあこんなダークな部分を隠さない所もSano惣の魅力の1つだ、と思い込んでしまうのがいいでしょうね。
ちなみにこのSano惣の支配者お母さん。「長柄のスーパーコンピュータ」の異名をもっています。誰が何と何を注文し、何をトッピングしたのか、全てを把握しており、おばあちゃんがレジを打つよりも早く合計金額をはじき出します。
「ごちそうさまでした!」
「は~い1,050円でーす。お持ち帰り4つのお客様で~す。」
という具合に、店内食事分と持ち帰り分の合計を一瞬で計算してくれます。すげえ!
そしてこちらのコロッケの人気の高さはお客さんが常に持ち帰り窓口にいることからもわかりますが、たまに「コロッケ30個ちょーだい」えっっ?何人家族?みたいな凄い注文が入ります。それでも一切たじろがず、普通に「はい、30個ね」と答えるおばあちゃん。こんな注文が日常茶飯事なんでしょうね。
ちなみに写真の右横のスペースでは、Sano惣の秘密兵器、揚げる前のコロッケを制作する女性がおられます。まさに縁の下の力持ち。こちらも「神の手」ですね。いつも快く自転車を置かせていただき、ありがとうございます。
休日の朝、河川敷を気持ちよく自転車で走り、「神の手」による治療を受け、美味しい洋食ランチをいただき、再び気持ちよくサイクリングをして家に帰る。
やめられまへんな~。
そして持ち帰ったコロッケは晩ごはんでいただきます。
細長いのはカレーコロッケです。これも美味しいですよ!
しかしS先生。僕は思いました。今回は先生の言いつけを守り、整骨院の名前を伏せておきました。ただ、「Sano惣」の近所で、たまに爆音がとどろく整骨院。
先生、恐らくバレバレです。
あっ、あそこでタバコ吸ってる人!あの100ドル札の人だ!!
今日の1曲:TVアニメ「ベルセルク」より 鷺巣詩郎「The God Hand」
※次回は臨時増刊号!11月3日(火)に更新予定です。