「ドキュメント 目撃!ニッポンの闇 episode2」
前回の放送で一人の「スマホ難民」の密着取材をお送りした所、非常に大きな反響をいただいた。この問題の社会的な関心の高さを痛感した次第である。
前回の放送を見逃した方はこちらをどうぞ。
さて、前回の取材では社会の流れに取り残されてゆく人々の悲壮感、苦悩が浮き彫りになった訳であるが、同時に取材対象者への疑惑が持ち上がってきた。
大阪府在住の会社員、ガッチさん(仮名)47歳。
彼が取材終了直後に取った行動によって、我々は疑念を抱かざるをえなかった。
取材中、散々スマホの批判を繰り返していたにも関わらず、取材後にはスマホのカタログを食い入るように見ていたという相反する行動。しかもその時の彼の目。普段は眠たそうな、虚ろな瞳をしているのだが、カタログを見ている時の彼の目はハリウッド俳優なみの目力を宿していた。
思いっ切り前向きにスマホを検討しているじゃないか。
しかしこれ以上密着取材を続けても、我々の前では本音を漏らさないであろう。そこで我々は、密かに張り込みをし、彼を尾行しながら取材を続けることにした。
だが1週間、2週間と経っても彼は休日に全く外出をしなかった。連日の雨天、そしてコロナ渦中なので仕方ないが、それにしても出て来ない。いつもなら冬眠から目覚めた熊のように早朝からモーニングに出かけていたのだが、それもない。
そして我々の間に不安が広がってきた3週目、張り込み中のADから一報が入った。
「ボス、ホシが動き出しましたぜ。駅へむかっているようです。」
刑事になりきっているADの口調に少しイラッとしたが、尾行を始めるように指示を出した。
ガッチさんは大阪梅田で電車を降りたらしい。
「ボス、グランフロント大阪へ向かっているようですぜ。」
グランフロント・・・あそこには確かauショップが入っていたはずだ。もう疑いの余地はない!間違いなくスマホへの機種変更だ。
「よし、機種変更を終えて店から出て来た所を直撃しろ!」
「ガッテンですぜ、ボス!」
急に昭和臭を漂わせたADに少しイラッとしながらも、吉報を待った。
すると・・・
「ボス、マイネオのショップに入りましたぜ。どうします?」
えっ!?格安スマホにするのか?まあ、それもありか。どちらにせよ、スマホへ変えるのに違いはない。
「ボス、パンフレットをもらってすぐに出て来ましたぜ。」
あれ!?今日はただの情報集めなのか?だがADからの情報では、家を出る時にかなり思い詰めた表情をしていたらしいので、何らかの動きはあると思っていたのだが・・・。
「と、とりあえず尾行を続けてくれ。」
「了解しました。」
急に普通の口調になったADに少しイラッとしながら、続報を待った。
その後のADからの連絡によると、ガッチさんは泉の広場を抜け、そこから地上に上がり、扇町方面へ向かっているようだ。どこへ行くんだ?
そしてしばらくしてから・・・
「ボス、ここが目的地のようですぜ。」
画像が送られてきた。
ん!?何だここは?
「マンションのショールームのようなものが見えますが、その横にレストランが見えますね。ガッチさんはそちらへ入って行きました。あ、こ、これは!?」
「ど、どうした?」
「ここは最近話題の『神山ロビー』ですぜ、ボス!」
「え?何それ?」
「最近インスタ女子がわんさか押しかけているという、鶏と卵とバナナと珈琲にこだわったレストランですよ。こんな所にあったのか。」
神山ロビー
「鶏と卵はわかるが、バナナ?」
「神バナナと呼ばれる恐ろしく美味しいバナナが食べれるらしいです。それが入った『プリン ア・ラ・モード』を求めて女子が殺到しているという噂ですぜ。」
「しかしそんな所へインスタ嫌いのガッチさんが行くというのも変じゃないか。」
「いえ、恐らく彼の目当ては卵でしょう。密着取材中もやたらと卵を食べていましたし。とりあえず、僕も中に入って監視を続けますね。」
(こ、こいつ、食べたいだけだろうが)
入った瞬間、ため息が出るほどのお洒落感です。
非常に明るく、開放的な店内です。
この長机はおひとり様用みたいですね。これなら一人でも来やすいです。
窓側には一つ一つ壁で仕切られた2人用ソファ席があり、ここが良かったのですが人気の席らしく、もう予約でいっぱいでした。4人用もありました。ガッチさんも予約はしていなかったらしく、普通のテーブル席へ通されていました。僕もその2つ隣のテーブル席に着席。さあ食べ・・・いや、監視を続けよう。
絶対このソファ席の方が落ち着けるよね~。残念。次は予約して来るぞ。おっといけない、監視、監視。
ガッチさんの注文する声が丸聞こえだったので、僕も同じものを注文しました。
まずはお店の売りである鶏と卵を同時に楽しめる「ヲムライス」に、更にフライドチキンをトッピング。さすがガッチさん、食に対しては貪欲だ。
ヲムライス
オムライスじゃないの?いや、確かにヲムライスと書いてありました。卵部分がかなり分厚いです。そして、美味い!しかし、量が少ない!ジャンジャンブルのSサイズより小さいかもしれません。でも卵自体がボリューミーなので意外と満足できました。フライドチキンもカリカリで美味しかったですが、なんか小さいです。
そして食後のデザート。ガッチさんは間違いなくプリンアラモードをいくと思っていたら、「おとなプリン」というものを注文しました。それもそのはず。プリンアラモードの値段を見てビックリ。
1800円な~り~。
冗談顔だけにしろよ。
料理より高いじゃないか。あーでも神バナナ食べたかったな~。番組の経費で落ちたのにな~。でもガッチさんと同じものを注文しないとボスに怒られそうだ。ちょっとだけ抵抗して、僕は「こどもプリン」というものにしました。
おとなプリン
ガッチさんのテーブルを望遠レンズで激写しました。パパラッチ気分です。
メニューの説明によると少し洋酒の入った大人なプリンだそうです。
そして僕はこれ。
こどもプリン
見た目一緒やん!てことはないです。よーく見るとバニラビーンズっぽい黒い斑点が見えます。こちらは名前通りの、子供が大好き王道の味です。卵が効いてますな~。
締めはカフェオレで。この美しい模様をいかに崩さずに飲み続けるか。積み木崩しのようです。
しかしこのお店にはもっとインスタ映えするような料理やデザートがいっぱいあるのに、あえてヲムライスとプリンを選ぶところがダークサイドの住人であるガッチさんらしいですね。
ガッチさんも食べ終わったようです。表情を見ると概ね満足したようですが、何かボソッとつぶやきました。ボイスレコーダーを再生してみると、
「皿を引くのが早すぎるねん。」
同感です。確かにこちらのお店、お皿を引くタイミングが早過ぎます。最後の一口を食べた瞬間に近づいて来て、「空いてるお皿をおさげしましょうか?」
「今空いたとこや」と僕も思いました。
わんこそばを引くタイミングですよ、あれは。
平らげたお皿を見ながら余韻に浸りたいのが人情ってもんでしょう。
そうこうしているうちに、ガッチさんが立ち上がり、レジへ向かいました。
美味しいものを食べて、その勢いのまま機種変更へ向かうのだな。
よし、尾行再開だ!絶対現場を押さえてやる!待ってて下さい、ボス!
さらば神山ロビー。次来た時はプリン ア・ラ・モードだ!1800円!
「あいつ、何してるんだ。連絡遅いなあ。」
「ボス、お待たせしました!大変です!ガッチさんが!」
「ど、どうした?」
食べた後、真っすぐ家に帰りました。
「何いっ!?家を出る時に思い詰めた顔をしていたというのは何だったんだ?」
「あれは恐らく、何を食べるか悩んでいたんでしょう。もう尾行は諦めて、もう一度正式に取材を申し込んでみては?」
「そうだな、そうしよう。」
その日、私はさっそくガッチさんにダメ元で連絡してみた。するとガッチさんから意外な返答があった。
「ああ、今日は尾行されてると思って、あえて機種変更しなかったよ。来週スマホに変えるけど、取材する?しかし彼、わかりやすいね~。もの凄く刑事っぽい服装で尾行してたからすぐにわかったよ。」
ADよ、君はクビだ。
次回、「スマホ難民ドキュメント」3部作、感動の完結編!
いや、誰も期待していない。