世の中のあらゆる物には、それぞれ役割があり、その役目を果たそうと各々、日々尽力しています。
でも頑張れば頑張るほど批判されたり、嫌われたりするという理不尽な状況が稀に起こります。
今日の主役も、そんな迫害を受けている一人です。
「鼻毛」です。
私たちが生きていく上で、彼の働きは不可欠です。空気中のゴミやウイルスが体内に入るのを防ぎ、さりげなく守ってくれています。また、鼻の中が乾燥するのも防いでくれています。空気の悪い所へ行けば、それに合わせて長さまで調節してくれるというフレキシブルな神対応。
彼がいなければ、地球上ではとんでもない勢いでウイルスが猛威をふるっていることでしょう。
それなのに、人類の彼に対する接し方はどうでしょう?
少しでも外の世界へ顔を出そうもんなら、
「うわっ!鼻毛出てる!」
「だらしないな~。」
「何でこんなもんが存在するんや。」
「生えてくるなよ!」
とまあ、守ってもらっているのを忘れて言いたい放題です。
我々は鼻毛なしでは生きていけないんだよ。
この理不尽な状況をそのままにはしておけません。
今こそ立ち上がり、声を上げる時がやって来たのです!
私はここに、
「鼻毛の立場向上委員会」
を立ち上げることを宣言します!
それでは会長、記念の鼻毛カットをお願いします。
「プチっ。」
パチパチパチパチ。
それではさっそく会議を始め、1つずつ問題を解決していきましょう。
①名前問題
まず、名前がいけません。
「鼻毛」。
響きが悪いですね。間違いなく嫌われる響きです。特に最後の「げ」に対する印象が悪いです。名前は大事です。
世界各国ではどう呼ばれているんでしょうか?調べてみるとその中に気になる呼び方がありました。
フランス語です。
「le poil de nez(ル ポワル ドゥ ネ)」
お洒落~!
ケーキ屋さんの名前にしてもよさそうですね。採用しましょう。
これからは鼻毛のことを敬意を込めて「守護神ポワルネ」と呼びましょう。
嫌な響きだった名前が一気に神々しく、かつお洒落になりましたね。この問題はこれで解決です。
しかしポワルネ様は、放置しておくとどんどん成長してきます。
②散髪問題
ポワルネ様が成長してきた時、私たちは大慌てで処理をしようとします。外の世界へ出ていないか?と躍起になって処理を急ぎます。
しかしこの対応は、日々我々の健康を守って下さっている守護神に対して、非常に失礼な行為です。もっと敬意をもって接しなければいけません。
闇雲に切ればいい、というものではないのです。
皆さんは散髪屋へ行く時、髪形を気にするでしょう。
ポワルネ様も同じ気持ちです。整った美しい形でありたい、と思っておられるはずです。
ここで問題なのが、我々が処理に使用している「ハサミ」です。
僕を初め多くの方は、安っぽい鼻毛バサミでチョキチョキと地道に切っていると思いますが、それではポワルネ様は納得しません。
やはり守護神に相応しい、名器をもって対応しなければならないのです。
そしてその名器、いや「名刀」は岐阜県に存在しました。
岐阜県関市。
関市といえば、イギリスの「シェフィールド」、ドイツの「ゾーリンゲン」と並んで「世界三大刃物産地」としてその名を轟かす、美しく品質の良い刃物を生み出す日本を代表する「刃物のまち」です。
我が大阪にも「堺」というこれまた素晴らしい刃物のまちがありますが、世界三大に選ばれているのはこちらの関市です。
この「刃物の聖地」で、ポワルネ様の散髪に相応しい「伝説の名刀」に出会いました。
関市が発祥の超一流刃物メーカー、貝印(株)が展開する、伝説の刀鍛冶の屋号を冠した
「関孫六」シリーズ。たくさんの包丁をラインナップする中で異彩を放つこのカッター。しかし刀鍛冶の匠の技術が遺憾なく発揮された素晴らしい名刀です。
ポワルネ様の散髪を担当するのに、これ以上の適任者はありません。
カッコいい~!武者の鎧と刀を連想させますね。
この2つのパーツを組み合わせると最強の名刀が完成します。刀の先端部分が回転し、ポワルネ様を短く、美しい形に仕上げていくのです。
それでは、合体!
シャキーン!
カッコ美しい~!
表面のクロムメッキの仕上げにも高級感を漂わせています。
さあ、その実力のほどはどうでしょう?
孫六「今日はどうなさいますか?」
ポワルネ「そうだなあ。刈り上げないぐらいにサイドを短めにしてもらって、奥の方は整える程度に。あと、前髪は特に短くお願いします。」
何の話や。
使用方法は、先端を鼻孔に挿入し、サイドのレバーをつまみながら、切りたい所へ持って行くだけです。レバーをつまむ度に刀部分が回転し、ばっさばっさと芝刈り機のように刈り込んでいきます。
孫六を鼻に突っ込み、カチャカチャといわせながら上下、左右に、と動かしている絵面は絶対にYouTubeでは流してはいけない映像です。
これはなかなか不思議な体験でした。
全然切れているという実感がないのに、確実に切れている。これぞカリスマ鼻容師です。
しかし美しく仕上げるが故に、巨大ポワルネ様を狙いすまして、というピンポイントな攻撃は少し苦手なようです。そういう時の懐刀として、いつものハサミも出撃準備しておいた方がいいかもしれません。
う~ん。しかしこのクオリティ。さすがメイドインジャパン。
散髪問題、これにて解決!
そして最後の問題は・・・
③発見問題
自分のポワルネ様は孫六に任せていれば大丈夫ですが、他人のポワルネ様が外の世界へ飛び出ているのを発見した時が問題です。
「鼻毛出てるよー」と気軽に言える間柄の人ならいいのですが、そうでない場合、なかなか言いにくいですよね。しかしそのまま知らん顔するのは良心が痛みます。本当にその人の事を思うのであれば、勇気をもって言ってあげるべきでしょう。
そこで、これからはこう言って教えてあげましょう。
「ポワルネ様が日向ぼっこをしておられますよ。」
なんだか素敵な絵本のセリフみたいに聞こえます。
これなら不快な思いをさせず、確実に危機を伝えることができますよ。
まあこれは「ポワルネ様」という呼び名が浸透しているのが大前提になりますが。
「鼻毛が日向ぼっこをしていますよ」では皮肉っぽく聞こえて逆効果ですので、ご注意ください。
以上で、全ての議題が終了しました。鼻毛、いやポワルネ様の見方が随分と変わったのではないでしょうか。不眠不休でウイルスから我々を守って下さる守護神に対し、人類は最大の敬意を払って接しなければなりません。
そして当委員会が目指すのは、
「一億総孫六計画」です。
スマホのように関孫六が普及するのもそう遠い日ではないでしょう。
「うわっ!それ最新の関孫六13やん!いいな~。」
名刀廻りて、鼻毛断つ。
今日の1曲:Manowar「The Power Of Thy Sword」