がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

太陽の塔の決斗

あまりにも日常的に目にしている為、普段は全く気にならないもの。

 

生まれた時からずっと近くにあり、まるで親戚のような感情を抱いているもの。

 

しかしよくよく考えてみると、世間では凄いものとして認識されているもの。

 

僕にとってのそれは、この方です。

太陽の塔

1970年、大阪府吹田市でアジア初の万国博覧会が行われました。

期間中、累計6421万人が訪れたという、戦後日本最大のイベントとして日本中の目をくぎ付けにした日本万国博覧会大阪万博)」です。

 

この万博のアイコンとして建設されたのが、「爆発する芸術家」岡本太郎によって生み出された太陽の塔

 

独特すぎる強烈なデザインで、一目見たら一生忘れることのできない見事な建造物です。

近年、漫画20世紀少年において重要な役割を果たしていたのは記憶に新しいですが、僕は断言します。

 

太陽の塔は、将来必ず世界文化遺産として登録されます。

 

近くで見るとわかりますが、異様な姿から放たれる圧倒的なオーラ、存在感は現在登録されている他の世界遺産の建造物と比べても、肩を並べるどころか、独創性では一歩リードしているとさえ感じるからです。

 

大阪万博が開催された3年後に僕が生まれたのですが、万博の跡地が整備され、

万博記念公園として生まれ変わってからのこの場所が、少年時代の僕の遊び場だったのです。

幼い頃の写真を見ると、大抵がこの公園で遊んでいる写真であり、太陽の塔も写真の中でひょっこりはんのように写り込んでいます。

 

あれは小学二年生の時でした。

友達5、6人で遊んでいる時、

 

「誰が太陽の塔に一番似ているか」

 

を競うという謎のイベントが突然開催されることになったのです。

わざわざ日を改めて、各自練習をしてからやろうという力の入りようです。

何故そこまで本気なイベントになったのか、未だに理解できませんが、当時の僕たちは真剣そのもの。この結果次第で今後の学校での自分の地位が左右されるのを子供心に感じていたのでしょうか。

 

そんなもん、誰も似てないやろ。

 

と大人はすぐに思うでしょうが、そんな大人たちをあざ笑うかのように、この謎に包まれたイベントは先鋭的な子供たちの間で粛々と行われました。

 

太陽の塔の顔は丸いので、ぽっちゃり系の子が圧倒的に有利でした。

でも僕は水泳をしていたので、シュッとしていたのです。

このハンディキャップを埋めるべく僕が注目したのが、

「唇」です。

斜め左上に突き出された口の形。これが太陽の塔っぽさを観客に感じさせる最大のポイントとして位置づけ、鏡を見ながら鍛錬を重ね、遂に自分を太陽の塔と見間違う程の高みにまで上り詰めました。

 

そして決戦の日。

 

みんな必死に自分がイメージする太陽の塔像を表現していて、予想以上のハイレベルな激戦が展開されました。

やはりぽっちゃり系の子が頭一つ抜けている印象でした。

僕は最終滑走者です。

苦しかった日々の鍛錬を思い出し、両手を左右に大きく広げ、普段食べる時以外には発揮されない目力を宿し、堂々たる太陽の塔を造り出していきました。

最後の仕上げは最もこだわった「唇」。

頬っぺたの両側をぎゅっと真ん中に絞り込み、唇を突き出しました。

 

そしてここからが最大の見せ場です。

 

突き出た唇をそのまま左斜め上に歪めていき、人間離れした異形の口を見事に表現することに成功しました。

 

「おお~っ!!」

 

という歓声が巻き起こり、僕は勝利を確信しました。

 

全員一致の深イイ完全勝利。

 

全員が僕に一票を投じ、僕の完全優勝でこの前衛的なイベントは幕を閉じました。

 

本来であれば勉強に注ぐべき労力を、こういう訳のわからないことばかりに注ぎ込んだ結果、

 

今の僕がいます。

 

自業自得ですね。

 

ある日仕事中に、太陽の塔の姿がちらりと目に入って来ました。この時、あの栄光のイベントの想い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡ったのです。

そして車に乗り込んだ僕は、おもむろに「あの唇」を40年振りにやってみました。

しかし、唇を突き出す所までは出来るのですが、そこから斜め上に持って行くのは不可能でした。

何度も何度も車を運転しながらチャレンジしましたが、出来ませんでした。

やはりあの時の僕はその道を極めていたのだ、と再認識しました。

すれ違った車の方々、僕の顔を見てびっくりしていたことでしょう。

ごめんなさい。

 

すると今度は無性に、太陽の塔に会いたくなってきました。

いつも遠目にちらりちらりと姿は拝見していますが、久しぶりに近くで、真正面から眺めてみたくなったのです。

 

そしてもう一つ行きたくなった理由。

 

太陽の塔の内部が公開されている。

 

何年か前に話題になった「内部」

その時は予約を取るのが難しく、諦めていました。

どうせ期間限定だったのだろうと思っていたら、何と今も公開中だったのです。

すぐにネット予約をしました。

当日券もありますが、予約優先なので予約した方が良さそうです。

 

長年会えていなかった親戚のおじさんに会いに行くような気持ちでした。

 

太陽のおっちゃん、久々に会いに行くよ!

 

今日はおっちゃんの中に入らせてもらうで~。

ららぽーとエキスポシティ

には目もくれず、

一直線に太陽のおっちゃんに会いに行きます。

中央環状線の上を通る橋を渡れば、おっちゃん登場です。

でもおっちゃん大き過ぎて、さっきからちらちらと視界に入って来ています。

 

久しぶりやで、太陽のおっちゃん!

やはり何度見てもデカい。東大寺の大仏さんと太陽の塔は、見る度にデカいと感じます。

なんせ身長70mですから。

塔内部への入り口はおっちゃんの裏側にあるので、回り込みます。

昔はおっちゃんの周りの芝生でも遊べたのですが、今は入れないようになっています。

あの時は子供が普通におっちゃんにボールを当てて遊んでいたので、入れない方がいいですね。

 

太陽の塔には、3つの顔があります。

太陽の顔

練習したな~。この顔になりたくて。

太陽の塔を最も強く印象付けるこの顔は、「現在」を表しています。

 

黄金の顔

最上部に付いている、これも顔です。

これは「未来」を表しています。

テレビ局のアンテナでもなければ、冷麺の皿でもありません。

 

黒い太陽の顔

裏に回ると現れる顔。これもなかなか強烈です。

これは「過去」を表しています。

子供の僕の目には、これがいつも「背中のイレズミ」に見えていました。

そして「太陽のおっちゃん、銭湯に入りに来たら断られるんやろな」といらない心配をしていました。

 

では、いざ塔の内部へ!

ドキドキドキ・・・・・

 

しばらく進むと、異様な光景が目に飛び込んできます。

プロローグ〈地底の太陽〉ゾーン

万博当時、太陽の塔の前に地下展示されていた「地底の太陽」

万博閉幕後に行方不明になったそうで、今は復元されたものが展示されているようです。

だ、誰が持ち去ったのこんな大きいもの!?

家にこんなものがあったら眠れないでしょう。

しかし強烈なビジュアルです。やはり岡本太郎は確実に爆発しています。

じっと見ているとるろうに剣心「志々雄真実」のようにも見えてきました。

 

さあ、それでは内部へ!

 

 

ううっ!また強烈だ!!

生命の樹

塔内部を貫く巨大なオブジェ。

高さ41mにおよぶこの樹体に、様々な生き物が貼り付いており、階段を登りながら生物の進化をたどれるようになっています。

これから階段を登って行くのですが、階段以降は撮影禁止なので、ここから先の写真はありません。

階段は、ちょうど「太陽の顔」の辺りまで続いています。

外の見た目も強烈ですが、中は更に凄いです。

今までに感じたことのない気持ちにさせられました。

特に印象深かったのが、「左右の腕」の内部。

「宇宙」を連想させる近未来的な不思議空間が広がっていました。

これは死ぬまでに見ておいて本当に良かったです。

 

凄いぞ太陽のおっちゃん!

 

体内を見て改めて尊敬の気持ちが湧き上がって来たよ。

 

外へ出て来て見上げると、背中のイレズミがいつもより美しく見えました。

生まれてからずっと、僕を見守ってくれている太陽の塔

今回久しぶりに会いに来て、改めて自分の人生を振り返り、考え直すきっかけとなりました。

 

「そろそろ真面目に勉強せえよ。」

 

おっちゃん、もう手遅れやわ。

 

今日の1曲:King Crimson「太陽と戦慄 パートⅠ」