大阪で家電といえば「ジョーシン」。
関西資本の大型家電量販店で唯一生き残ったジョーシンに対する大阪府民の信頼は非常に厚く、ヤマダ電機やエディオンが勢力を拡大してきた昨今でも、それは変りません。
その大きな要因となっているのが、ジョーシンが「阪神タイガース」のスポンサーであるということ。
同じ買うならタイガースにゆかりのあるジョーシンで、という心理が働くのです。
僕とジョーシンの付き合いの始まりは中学生の頃。
ソニーの携帯ラジオを買ったのがきっかけでした。
現在も災害時用の情報源として現役のこのラジオですが、当時は家の中でも大事に持ち歩き、そこら中に座り込んでは旧い洋楽をかけてくれるマニアックなラジオ番組を聴いていました。
ある日、階段の途中に座り込み、電気も付けずにいつものようにこのラジオを聴いていたところ、オカンが階段を登ろうとやって来て、悲鳴をあげました。
「あんたは座敷童か。」
という的確なツッコミをくらったのも今となっては良い思い出です。
それからずっと、家電の全てをジョーシンで買ってきました。
ポイントカードなる物を初めて持ったのもジョーシンでした。
貯まったポイントをCDに交換するのが青春時代の生きがいでした。
これからもずっと、VIPなジョーシンユーザーとして家電を一生買い続けるのだろう。
と思っていました。
ところが数年前、大阪の家電業界を揺るがす「黒船」が来航したのです。
「ヨドバシカメラ」です。
JR大阪駅の真ん前、梅田のど真ん中の一等地に突然現れた黒船に対し、大阪の人々は熱狂しました。
「何やあのどでかい電気屋。」
「家電だけとちゃうらしいで。」
「レストランとかも入っとるで。」
でも熱心なジョーシン教の信徒である僕は、冷ややかな目でこのヨドバシフィーバーを遠くから見ていました。
「ふん、誰が買うかそんなとこで。俺のジョーシン愛をなめとったらあかんぞワレ。」
そしてそれから数年後。
僕の財布にはヨドバシカメラのポイントカードが入っていました。
あ、あれ?どうしたの熱心な信徒さん??
だって・・・
ヨドバシの方が・・・
ポイントが・・・
早く貯まるんです・・・。
ジョーシン教、破門。
ついつい、豊富な店頭の品数とすぐに貯まるポイントにつられて、最近ヨドバシで買うことが多くなってしまいました。
でもヨドバシには、どうしても我慢できない点があります。
いつ行っても人が多過ぎる。
場所が場所だけに当たり前なのですが、人波が嫌いな僕には地獄の環境です。
そこで最近よく使うのが、ヨドバシの「店頭受け取りサービス」です。
あらかじめネットで注文しておいた物を、お店にある専用の窓口で受け取れる、というサービスです。
これだと混雑した店内へ行くことなく、1階にある窓口へ行くだけで商品が受け取れるのでストレスがありません。
しかも24時間いつでも受け取り可能。
それなら普通の通販で配達してもらったら?
と思われるかもしれませんが、店頭で商品を受け取る時の何とも言えない高揚感はどうしても味わいたいのです。
ただ、これも営業時間内に行くと、受け取り窓口が満員になっている時があります。
せっかくの24時間受け取り可能。
だから僕は、人が少ない時間を狙って行きます。
それは朝です。
一日で最も爽やかな時間に颯爽とヨドバシへ現れ、怪人二十面相のように、ブツを手に入れたら疾風の如く立ち去るのです。
しかしよく調べると、疾風の如く立ち去るのはもったいないということが判明しました。
1万円以上の買い物をすると、駐車場代が2時間無料になるのです。
大阪駅前、梅田の中心地という全国屈指の大都会で2時間も車が停めておけるというのは大きなアドバンテージです。
しかし怪人二十面相がお店に現れるのは、朝7時。
まだ周辺のお店はほとんど開いてません。
そんな時間に2時間も何をするのか。
モーニングでしょ。
筋金入りのモーニング好きである二十面相。
しかしヨドバシからの徒歩圏内で7時台から開いているモーニング処はごくわずか。
だが、そこは貪欲な二十面相。
標的をすぐに定めました。
朝7時、二十面相が操る軽自動車がヨドバシカメラの地下駐車場に姿を現しました。
駐車場がガラガラな事に満足しているようです。
しかし、なかなか地上に上がろうとしません。
どこから上がるのか迷っているようです。
地下をうろうろする二十面相の勇姿が、数多の監視カメラに映っていたことでしょう。
やっと上がるエレベーターを見つけたようです。
そして遂に受け取り窓口へたどり着きました。
なんかガチャガチャしてるなあ。嫌いだなあ、この雰囲気。
でも狙い通り、この時間はガラガラです。
二十面相は注文していた保冷BOXを受け取りました。
戦利品であるシャトレーゼのアイスを大量に運搬する為に購入したのです。
一度車へ戻り、満足気に保冷BOXを置いてから、モーニング処へ向かいました。
爽やかな梅田の朝。
日中では考えられないぐらい、人もまばらです。
ヨドバシカメラからグランフロントへ渡るこの廊下も、普段は凄い人ですが、誰も歩いていません。
今や大阪駅前のランドマークとなった複合施設。
今日のモーニング処はここの地下にあります。
シティベーカリー
グランフロント開業時、大行列になっていたパン屋さん。
本店がニューヨークにあり、当時大人気だったテレビドラマ「Sex And The City」に出てくるパン屋さんが大阪にやって来たと大変な話題になっていました。
ここで7時半からモーニングをやっているのです。
この近辺でこの時間から開いているお店は少ないので、8時前に着いたのですが既に満席でした。
ここで懸念されたのが、
「大阪人、モーニングで長時間居座る問題」だったのですが、意外と早く席が空きました。
行列から立ちのぼる二十面相の禍々しいオーラが店内に充満していたのかもしれません。
グランフロント名物の「水の階段」がすぐ横に見えるベスポジに通されました。
それに気を良くした二十面相、勢いよく最も高額なモーニングを注文しました。
CBブレックファスト
ただでさえ高いのに追加料金を払い、トーストをシティベーカリー名物である「プレッツェルクロワッサン」に変更。
ドリンクを合わせると1300円ぐらいでした。
高っ!!
岐阜が恋しい・・・。
しかし、このクロワッサンは衝撃の美味しさです。
サックサクで、外国のパンらしい濃厚な味です。
そしてこの濃ゆ~いクロワッサンが、かつてのジョーシンでの濃厚な時間を思い起こさせてくれました。
ヨドバシには何かが足りない。
ずっと引っかかっていました。
ジョーシンでは、懇意にしていたHさんという店員さんがいました。
Hさんはいつも売り場を一緒に回ってくれ、的確なアドバイスをしながら思い切った値引きもしてくれました。
売りつけてやろうという気など一切なく、本当に真摯に対応してくれるHさんに対して、僕は絶大な信頼を寄せていました。
彼が転勤すると、その度に追いかけて行ってそのお店で家電を買いました。
Hさんとの商談には「心」があったのです。
でもヨドバシカメラは店員さんの数が凄く多いです。
いい店員さんがいても、次に来た時にはその人はいません。
それではHさんのように長く付き合える店員さんとはなかなか出会えません。
そこに僕はずっと違和感を感じていたようです。
そういえばHさんは今、どうしているのだろうか?
ここ数年ヨドバシに浮気をしてしまい、めっきりHさんの所へ行かなくなったので、もう今どこのお店におられるのかもわかりません。
Hさんとの魂の商談が懐かしくなってきました。
やはりジョーシンを見捨てるわけにはいかない。
次、大きな物を買う時は久しぶりにHさんを訪ねてみよう。
そして普段の消耗品はジョーシンで買うようにしよう。
そう決意した時、僕は人間として一皮むけた気がしました。
その男、ヨドバシ&ジョーシン、2枚のポイントカードを自在に操り家電を手に入れるという。
風の如く買い物をし、山のようにモーニングを喰らう。
二十面相改め、「家電二面相」、見参!
「いえ、彼はうちの一族とは一切関係ありません。」(がっち家親族一同)
今日の1曲:ウインズ平阪「情熱をなくさないで(Joshin ver.)」