がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

レッドクリスマス

もう少しでクリスマスですね。

ハロウィンは全く馴染めませんが、クリスマスは大好きです。

年の瀬のバタバタとした雰囲気を和らげ、楽しくて温かい気持ちにさせてくれます。

正月の静かなムードよりも、年末のクソ忙しい空気感の方がウキウキするのは、クリスマスのおかげでもあるのでしょう。

ハロウィンが終わった瞬間、クリスマス商戦に速攻でシフトする商魂たくましい日本人。

12月に入り、クリスマスが迫るにつれ日本中がどんどんサンタクロース色に包まれていきました。

しかしそんな中、未だに紅葉前線を追いかけているアホが1匹、大阪にいました。

そのアホは昨年に続き、今年も絶妙に紅葉のピークを外しまくっていました。

諦めきれないその男は、クリスマスを目前に控えた12月の某日、三重県へと向かいました。

三重県異様に紅葉のピークが遅い場所がある」という情報をキャッチしたのです。

男はネットでその場所の見頃情報を随時チェックしていましたが、なかなか見頃になりません。

もう12月も中旬を迎えようとしていました。

 

「なんて遅い場所なんだ。」

 

男は途方に暮れていました。

ある日、いつものように見頃情報をチェックしていたら、突然「見頃」の表示が目に飛び込んできました。

 

「遂に来たぞ!今週末は待望の紅葉狩りだ!クリスマス前だけど。」

 

その週末、男は喜び勇んで早朝から三重県に乗り込みました。

間違いなく、これが今年の紅葉を楽しむ最後のチャンスになるでしょう。

しかしこの時、彼は致命的な過ちを犯していることに気づいていませんでした。

 

彼が向かったのは、三重県四日市市

 

「水沢もみじ谷」

 

どこやねん、それ!!(またそれ)

 

失礼いたしました。

ここは三重県ではとても有名な紅葉スポットで、百人一首にも詠まれている由緒正しい名所なのだそうです。

ちなみに「みずさわ」ではなく「すいざわ」と読みます。

 

男が早朝にここへ向かったのには理由がありました。

彼は無類のモーニング好きで、もみじ谷の近くにあるカフェのオープン時間、8時に間に合うように大阪を出発したのでした。

計算通りに8時に着きました。

普段は計算が大の苦手である彼ですが、こんな時の計算だけはスーパーコンピュータ並みの正確さです。

広大な駐車場です。大阪では考えられません。

しかし不思議なことに男の車以外は1台も停まっていません。

8:30開店でした。

彼の人生はいつもこんな感じです。

開店まで暇なので、お店の周りを散歩しました。

お店の横にはドッグランが併設されていました。

とても寒かったので、男はドッグランで走り回りたい、と思いました。

「私は大型犬だろうか?小型犬だろうか?」

しかし彼は人間なので、わざわざドッグランの中で走らなくても、道路を走ればいいのです。

やはり彼は生粋のアホです。

お店の裏から見える山々は、見事な雪化粧を施されていました。

「本当にこんな中で紅葉が見頃を迎えているのか?」

男は不安になりました。

8:30になりました。

音の和cafe

この頃には次々と駐車場に車が入って来ていました。

ドッグランを目の前に大興奮のワンちゃんの姿も見えました。

かなりの人気店のようです。

男は中からドッグランの様子を眺められる窓際の席へ座りました。

そして待望のモーニングを注文しました。

なかなかの豪華なモーニングに男は満足しました。
750円とお隣の岐阜県に比べると高めの値段設定ですが、これが普通なのでしょう。

岐阜が異常なのです。

ドッグランで元気に走り回るワンちゃんを見ながら優雅な朝食を満喫した男は、いよいよ目的地である「水沢もみじ谷」へ向かいました。

 

この時期だけ解放されるという駐車場に車を停め、少し歩くとすぐに谷の入り口に着きました。

ここから谷底へ向かう道が、見事な紅葉のトンネルらしいのです。

が、しかし・・・

あ、あれ!?・・・

これは何だか・・・

ハゲハゲじゃないか・・・。

 

男は慌ててスマホを取り出し、見頃情報を見ました。

するとなんということでしょう!

2日前に見た時は「見頃」だったのに、「落葉中」の表示に変わっているではありませんか!

 

「見頃短っっ!!」

 

男は驚愕しました。

クリスマスを目前に一気に紅く染まり、一気に散り始めたようです。

「私はこんな遠い所まで一体何をしに・・・。」

 

「いや、しかしよく見たら・・・」

「十分綺麗だ。」

地面を覆っている落ち葉もとても綺麗でした。

地に落ちてなお、色を放ち、次の時代の礎になろうとする気概に男は感動しました。

そして男はこの落ち葉が木から落ちる前の風景を想像しました。

「確かにここはピークの時に来れば見事な紅葉のトンネルだったに違いない。」

谷底から見上げると、青い空と紅葉が綺麗なコントラストを描いていました。

「紅葉のピークを捉えるのは難しい。だからこそ、ロマンがあるのだ。」

と男は自分に言い聞かせ、もみじ谷を後にしました。

この句を詠んだ人が見たもみじ谷は、それは見事な風景だったことでしょう。

「また来年訪れよう。8:30に。」

帰り際、男はこの辺り一帯に広がる茶畑に目を奪われました。

「こっちも綺麗だな。ミルフィーユみたいだ。」

そう思うと、男は急にお腹が減ってきました。

見頃を過ぎていたとはいえ、十分美しかったもみじ谷の風景に心を奪われているうちに、結構な時間が経っていたのです。

 

男はグルメを求め、四日市の中心部に移動しました。

ショッピングモールに車を停め、近鉄四日市駅前のアーケード型商店街を徘徊しました。

四日市名物の「トンテキ」など、色々と魅惑のグルメ処がありましたが、男はそれらをことごとくスルーし、ある1軒の喫茶店の前で足を止めました。

喫茶 スワサロン

この隠し切れない昭和の文化遺産の匂い。

そして後ろには決定的な看板がありました。

鉄板イタリアン。いわゆる「ナポリタン」です。

「この看板を見ておきながらスルーすれば、私は末代までの笑い者になるだろう。」

男は意味不明な信念を抱き、入店しました。

お店の中は、外観以上にディープな昭和臭が充満していました。

男は2階へ上がりました。

素敵にも程がある、いぶし銀な空間。

男は今日一番テンションが上がりました。

そして・・・

鉄板イタリアン

ちゃんと鉄板に載った本物のナポリタン。

「鉄板に載っていないナポリタンはナポリタンにあらず。合格だ!」

底に卵を敷いてあるので、焦げ付いた麺を引っ剥がす楽しみはありませんが、とても美味しい、病みつきになりそうな味でした。

合成着色料の疑いが強いソーセージの色がまた、昭和臭を強く感じさせていました。

珈琲も独特の味わいで、男はすっかり満足しました。

このセットが600円というのは破格の値段です。

テンションMAXになった男は、このセットと同じ値段のするデザートまで注文してしまいました。

モンブラン・アラモード

モンブランケーキが大量のフルーツにボコボコにされているかのような破壊的デザート。

男はまず、これまた合成着色料の疑いが強いサクランボを口にし、種を発射しました。

これを号令に、高カロリーデザート地獄へと堕ちていきました。

 

「こんな地獄なら、地獄も悪くないな。」

 

男は最近自分の腹囲が拡大傾向にあることを完全に忘れていました。

 

「美味しかった。はるばる三重県まで来た甲斐があった。さあ、大阪へ帰ろう。」

 

高速道路をぶっ飛ばし、京都と大阪の境界を超えた時、男はふと考えました。

 

「今日って何しに三重まで行ったんだっけ?」

 

スワサロンでのランチが上書きされ、男の記憶から完全にもみじ谷の出来事は消えていました。

結局この男は、グルメさえ充実していれば何でもよかったのです。

花より団子、紅葉よりもランチ。

その男の名は、

 

アホ!アホ!アホーのがっち~ ♫

 

メリークリスマス!

 

今日の1曲:Albert Hammond「落葉のコンチェルト」