がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

としちゃんがとしちゃんでとんちゃんを

「がっち」というのは小学一年生の頃からのあだ名です。

一つ年上の兄が「たがっち」と呼ばれていたのですが、一年後に僕が入学してきた時、僕も同じように「たがっち」と呼ばれていました。

 

しかしある問題が浮上しました。

休み時間に運動場で遊んでいる時、「たがっち」というのが、どちらのことを呼んでいるのかわからなくなったのです。

そこで子供たちは緊急会議を開きました。

そこで提出された案が、

 

弟は「た」を抜いて「がっち」にしてしまおう。

 

という子供特有の斬新な発想による解決方法でした。

 

「何で弟やったら”た”を抜かれなあかんねん!」

 

という僕の抵抗も空しく、この案は満場一致で可決されました。

「がっち」誕生の瞬間です。

それからン十年経った今でも、僕は「がっち」と呼ばれ続けております。

 

しかし僕には、もう一つのあだ名がありました。

 

「としちゃん」です。

 

これは主に母親やおばあちゃん、そして当時通っていたスイミングスクールの人たちから呼ばれていたあだ名でした。

そしてこの「としちゃん」というあだ名のせいで、僕はとても恥ずかしい思いをするはめになったのでした。

 

僕の家は小学校から阪急電車の駅へ向かう途中にありました。

その為、電車で遠足へ行く時は必ず僕の家の前を生徒たちが大行列で通過するのですが、その行列が通過するのを、僕のオカンがベランダで待ち構えていました。

ちなみにオカンは当時、「お笑い芸人よりも面白いおばちゃん」として同級生の間で大人気でした。

しかし僕は自分の家を通過する瞬間に巻き起こる出来事が、嫌で嫌で仕方がなかったのです。

 

ガヤガヤと僕らのクラスが家の前にさしかかった時、オカンが満を持してベランダに登場しました。

そして近所中に響き渡る声で、

 

「としちゃ~ん💛」

 

その声を聞いて「あっ!がっちのおばちゃんや!」とロックスターが登場したかのように一気に盛り上がる同級生たち。

完全に大物アーティストのライブが始まる時のような空気になりました。

調子に乗って、知っている子供に対して大声で話しかけるオカン。

それに子供たちが大声で応える姿は正にコール&レスポンス。

 

そして普段「がっち」と呼ばれている僕の裏のあだ名に対し、「え~、としちゃんやって~」とザワつき始める女子たち。

 

全身から火が噴き出す僕。

 

この恥ずかしい体験は、遠足へ行く度に続きました。

「もうベランダに出て来ないでくれ」

と何度も直訴しましたが、その時は「わかったわかった」と言うくせに、行列が通ると

 

「としちゃ~ん💛」

 

と同じことを繰り返し、その度に我が家の前がライブ会場と化していました。

 

でもまさかそれからわずか数年後に、その母が天国へ旅立ってしまうなんて、その時は思いもしませんでした。

あの時は心底嫌だった

「ザ・オカン ~ライブ・イン・ベランダ

も、今となっては良い思い出です。

 

と、そんな事を思い出したのは、このお店の前に来た時でした。

としちゃん

岐阜県下呂市小坂町

かの下呂温泉へ向かう国道41号線沿いに突然現れる、地元食堂感100%のお店。

このお店を初めて見て入って来る観光客は皆無でしょう。

だがしかし!

このお店こそが岐阜県の郷土料理「けいちゃん」の名店中の名店なのです。

(勝手に岐阜県観光大使さん情報)

 

「けいちゃん」とは、醤油や味噌ベースのタレに鶏肉を漬け込み、野菜と一緒に炒めるシンプルイズベストな逸品。

「ケンミンショー」で放送されてからは全国的な知名度になりました。

僕はいつも大阪の「スーパーバロー」で「けいちゃん」を購入しています。

野菜を混ぜて焼くだけなので、とても重宝しています。

でも、本場の「けいちゃん」とは一体どんな物なのか?

それはわからずにいました。お店ではあまり食べたことがなく、高速のサービスエリア内にある、どうでもいいようなお店(失礼)で食べただけでした。

 

地元の人が認める「けいちゃんの名店」で一度食べて見たい!

 

スーパーバローに行く度に、その思いは募る一方でした。

そして大使さんのブログで「としちゃん」の記事を見た時、遂にその夢が動き出したのです。

観光客に人気なのは、「としちゃん」の少し南にある「大安食堂」

ここは孤独のグルメに出たこともあるらしく、連日大勢の観光客が押し寄せているとのこと。

一方、地元の人々は「としちゃん」へ行くといいます。

これを聞いた僕の選択肢は「としちゃん」一択でした。

僕の裏ニックネームと同じ名前のけいちゃんの名店。

 

それともう一つ、としちゃんには気になる噂がありました。

 

「お店の人は、けいちゃんではなく、『とんちゃん』を勧めてくる」

 

と、とんちゃん・・・??

けいちゃんは「鶏ちゃん」と書きます。

とんちゃんは「豚ちゃん」なのかな?

ということは・・・・・そういうことなのか?

これは気になる。

行くしかない!

 

そして遂に今回、奥飛騨へ向かう途中に「としちゃん」に降り立ったのでした。

広大な駐車場には、地元ナンバーの車しか停まっていません。

浮きまくる大阪ナンバー。

やっと来れたー!

浪花のとしちゃん、岐阜のとしちゃんに入ります!

出たっ!これが噂の「どう見ても自動ドアなのに手動じゃないと開かないドア」

「押して下さい」という部分を押しても頑なに開きません。その下の取っ手をガラガラと引きます。前で立ってても永遠に開きませんよ。

ガラガラと開けて中に入ると、

 

凄まじいジモッティーオーラ!

 

久々に味わう超アウェー感。地元密着度100%。これは期待出来る。

ちょっと遠慮して、一番外側の席に座りました。

この日は3月中旬で、とても寒い日だったので、外側の席はかなりの寒さでした。

しばらく待っていると、お店の味のあるお母さんがやって来て、

「兄ちゃんら、そこ寒いで。中へ入り。」

と中の暖かい席へ案内してくれました。

そしてまたしばらくすると、

「兄ちゃんら、あっちの席へ行き。」

と先程空いた更に暖かい席へと案内してくれました。

 

優しいなあ~。

 

食べる前から心がポッカポカになりました。

 

それから注文を聞きに来てくれました。

 

「とんちゃんがお勧めよ。」

 

来た!

しかし「けいちゃん」も食べたいので、僕と妻とで「とんちゃん」と「けいちゃん」を両方注文しました。

 

「じゃあミックスにしとくね。」

 

混ぜるの!?

 

まあいいか。

 

ええ感じのお店です。ジモッティーたちはさっさと帰って行きました。

けいちゃんとんちゃん専用ヘリポート。早く来ないかな~。ドキドキ。

 

ジュワ~ッ!!!

 

只今、とんちゃんとけいちゃんを乗せた夢の鉄板が無事に着陸いたしました!

うん、やっぱり「とんちゃん」とはけいちゃんを豚肉に置き換えたものでした。

もうミックス過ぎてどれが豚肉か鶏肉かわからなくなっています。

もうええわ、食べるぞ!いただきます!

 

美味っっ!!!

家でいつも食べているものとは別次元でした。

肉と野菜の絡み方が凄い。香ばしいタレの匂いが「おらおら、ご飯食えよ」と煽ってきます。

岐阜の、特に飛騨地方の郷土料理は、ご飯に合うものが多いです。

卵の使用方法がわからず、とりあえずすき焼きのように付けて食べましたが、合ってたのかな?

最初はとんちゃんとけいちゃんを食べ比べようと思っていましたが、もう途中からどうでもよくなりました。

このミックスが美味い!!絶対ミックスがお勧めです。

あっという間に食べ終わりました。

そしてけいちゃん(とんちゃん)には玉ねぎと細いうどんを入れると美味しくなるのを学びました。

大阪に帰ったら実践してみよう。

 

ごちそうさまでした!

ありがとう、としちゃん!と、とんちゃんを食べたとしちゃんが言いました。

ややこし~。

 

「としちゃ~ん💛」

というオカンの声がまた頭の中を駆け巡りました。

 

もう最近では「としちゃん」と呼ばれることは少なくなりましたが、近年甥っ子からは

「とし君」と呼ばれています。49歳なのに。

 

今度は「としくん」というお店を探そう!

情報求む。

 

今日の1曲:海援隊母に捧げるバラード