がっちの航海日誌

日々の些細な出来事を、無理やり掘り下げます。

父と鰻。

最近読ませていただいたブログで、認知症を患いその後癌で亡くなられたお母様との想い出を綴ったものがありました。6回にも渡って綴られた大長編の記事だったのですが、その一文一文、一言一言に込められた温かい想いに引き込まれ、深い感銘を受けました。そして考えさせられました。

そういえば、僕は育ててくれた家族に対して何の恩返しもできてないなあ。

しかし祖父母、そして母は既に他界しました。もう恩返しのしようがありません。しかし父は健在です。せめて父だけにでも恩返しをしなければ。後悔しないように。

思えば母亡き後、寂しかったと思うのですが再婚もせず、僕と兄を社会人になるまで育ててくれました。父にはいくら感謝をしても全然足りません。

でも同姓の親子、特に男の親子って素直に気持ちを伝えにくいんですよね~。僕の父は凄く優しい父で、話しかけにくいということもないのですが、やっぱり面と向かうと感謝の気持ちを伝えるのが困難になるのです。何故だ?教えてくれよ先生!

で、感謝の気持ちを言葉で伝えるのは諦めて、とりあえず「食べ物」で伝えることにしました。普段行けないような少し敷居の高いお店へ行って、ささやかな恩返しをしよう。喜んでくれるかはわからないですが、「大阪市内に美味しいウナギ屋さんがあるから行かへん?」と誘ってみました。

喜んでくれました。

あまり表情が豊かではない父ですが、隠しきれない喜びが顔の数か所からにじみ出ているのを、僕の野鳥の会並みの観察眼が捕らえました。

よし、第一段階は成功だ。

しかし「ウナギ」という高級な響きに父は気を使ったのか、「そんな高いもんじゃなくても、そば〇〇でええで」と言ってきました。このそば〇〇というのは近所のそば屋さんで、まあ何と言うのか、言いにくいのですが味も値段もめちゃめちゃ普通のお店なんです。別にこういうのって金額じゃなくて気持ちだとは思うのですが、僕としては特別な料理をご馳走することで感謝の気持ちをより強く伝えたいわけです。「そば〇〇はいつでも行けるやん」と一蹴しました。

そしてお店の予約をしようとしたのですが、予定していた日は満席でした。それを父に伝えると、「もうええで、そば〇〇で」とまた言いました。「いやだから、そば〇〇はいつでも行けるやん」と二蹴しました。

もう一度日程を調整し、今度は予約が取れました。父にメールでその事を伝えました。もうさすがにそば〇〇のことは言ってこないだろう、と思っていたら、返信がありません。あれ?

何日かして、父に会いました。「予約したで。メール見た?」と聞くと「ごめんメール見てなかったわ。そやけどお前~、そば〇〇でええのに」。

どんだけそば〇〇行きたいねん!

親父、そんなにそば〇〇好きやったか?三蹴しました。

そして当日。車で父を迎えに行きました。助手席に乗り込む父。

「どこまで行くん?」

「旭区の方やな。」

「旭区か~。まあまあ遠いな。ええのに、そば〇〇で。

強制連行しました。

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魚伊 本店

大阪市旭区高殿。普通の住宅街に突然姿を現す堂々たる風格の建物。創業は慶応3年の超老舗です。慶応っていつ?150年以上前のようです。鰻を蒸さずに備長炭で焼き上げる大阪ならではの手法でいただけます。この店構えを見て、父もテンションが上がってきたようです。よしよし。

まず1階で声をかけようとお店に入ると、超満員!コロナどこ吹く風です。待っている人々もいました。僕らは2階の個室を予約していました。その2階へは、お店の横にある秘密の入り口から上がります。完全VIP待遇。それもそのはず。2階の個室を使うには、食事代の10%の料金を献上しなければならないのです。しかし父にはゆっくりと極上の鰻を堪能してほしいので、奮発しました。

f:id:gatthi:20201210200112j:plain この味のある櫓を見上げながら、VIPだけが通ることを許される秘密の通路へ。

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f:id:gatthi:20201210200342j:plain大物政治家になった気分です。がっち総理、入ります。

f:id:gatthi:20201210200826j:plainおお~なんかこの階段凄いな。と写真を撮っていると、

f:id:gatthi:20201210201414j:plain自分を撮ろうとしていると勘違いした父がもの凄いカメラ目線でポーズを決めてきました。しかしこの間の悪さこそが父の真骨頂です。採用しましょう。

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そして到着。ここから先は、ほんの一握りの選ばれし者しか入れません(よ、予約の電話しただけじゃないの?)。

f:id:gatthi:20201210202107j:plainがっち総理大臣と父君、そしてファーストレディーの3名様が到着されました。

f:id:gatthi:20201210202329j:plain「ご覧ください、父上。あの扉の向こうがめくるめく鰻天国でございますぞ。」

「うむ、でかしたぞ息子よ、褒めてつかわす。」

畳の部屋にテーブルが置いてあります。これは楽でいいですね。

本日注文したのは「鰻づくし御膳」

f:id:gatthi:20201210203410j:plainでは豪華絢爛たる鰻絵巻、はじまりはじまり~!

f:id:gatthi:20201210203548j:plainまずはいきなり鰻ではないお造りが運ばれてきて、鰻を待ち構えていた口をすかします。しかしこのお造りがまた絶品で、鰻のことを忘れてしまいそうです。

と思わせといてここからは怒涛の鰻ラッシュ!

f:id:gatthi:20201210204013j:plain鰻ざく酢

絶品鰻ときゅうりの酢の物による至高のハーモニー。一口で父の眼が輝きました。

f:id:gatthi:20201210204431j:plainうなぎ白焼き

他のお店でいただいた鰻との差を一番感じたのがこれ。皮パッリパリの中ふっわふわです。ワサビのみでいただきます。僕も大人になりました。父もこの一品が一番気に入ったようです。良かった、喜んでくれてる!これ以降、父の口から「そば〇〇」という名前が出てくることはありませんでした。

f:id:gatthi:20201210204843j:plainう巻き

卵焼きfeaturing鰻です。こんな美味しい卵焼き、食べたことない!ご飯が欲しい~。

f:id:gatthi:20201212122538j:plain八幡巻きと肝焼き

左がゴボウを贅沢にも鰻で巻いた八幡巻き。右が肝焼きです。これはお酒を飲まれる方はたまらないでしょうね~。僕はジンジャーエールを飲みながらいただきました。なんかもったいねー。お酒を飲めるともっとこういうコースを堪能できるんでしょうね。もう僕の体内ではご飯を要求してデモ行進が始まりました。ごーはーんー!ごーはーんー!

f:id:gatthi:20201212123441j:plain旬の素材の炊き合わせ

鰻絵巻もいよいよクライマックスが近づいてきました。その前に、優しい味わいの炊き合わせが登場し、気持ちを鎮めてくれます。この辺りの演出も見事というほかありません。僕の体内のデモ行進も収まりました。

そしてついに怒涛のクライマックスへ!

トリを務めるのはもちろんこの男、

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現れたな、ウナギ仮面!今日こそはその仮面をはぎ取ってくれるわ!

そりゃあっ!パカッ。

f:id:gatthi:20201212124134j:plainうな重

遂に出たぞ、ご飯が!デモ隊から大歓声が上がりました。サイドに肝吸い香の物を従えての貫禄たっぷりの姿に、父のテンションも見た目にはわかりにくいですが最高潮を迎えているようです。今まで色々な料理に姿を変えて登場してきた鰻さんですが、やっぱり蒲焼きが最高ですな。神の味です。

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そしてこの豪華絢爛会席の最後はデザートで。

f:id:gatthi:20201212125446j:plain自家製黒糖わらび餅

大興奮状態の胃の中を優しくクールダウンしてくれました。いい映画をエンドロールの最後まで観た時の満足感。本当に素晴らしい会席でした。

でもやっぱり、父と一緒に、というのが一番良かった所です。ふだんできないような話も色々できましたし、終始嬉しそうにしている父の姿を見るのは僕にとっても至上の喜びでした。そして今日改めて感じたのが、妻の存在のありがたさ。僕と父ふたりだと、お互い妙に緊張して変な感じになったかもしれません。それが妻がいてくれることで、凄く自然な雰囲気になるのです。いつもありがとう!

f:id:gatthi:20201212133134j:plain父上、また美味しいものを一緒に食べに行きましょうぞ!

でもまあ、

 今度はそば〇〇でええか。

 その時、父は恐らくこう言うでしょう。

 「何や、今日はそば〇〇かいな」、と。

今日の1曲:井上陽水奥田民生「ありがとう」